第48章 エスコートの基本は道路側を歩くこと。
その言葉は、この広大な空と自分とを比べているようにも感じられた。空、星、宇宙、それらに比べればちっぽけな自分。宇宙(このせかい)にとって自分と言う人間は小さな塵あくたの一つでしかない。だが自分にとって自分は、強大な存在である。誰かがこの世界からいなくなってしまう事は、他者や世界にとっては小さな出来事の一つでしかないのかもしれない。けれど、自分にとって“自分”がなくなる事は、世界が終わる事に等しいのである。
そんな哲学的な意見を述べる葵咲は、母なる大地に例えられるような、とても優しい笑顔を浮かべていた。その優しい横顔を見つめる近藤の顔もまた優しい顔つきになっていた。
近藤「…葵咲は優しいな。」
葵咲「そんな事ないよ。」
突如向けられる褒め言葉に、葵咲は照れたように少し頬を染めて俯く。
二人がそんなやり取りをしていると、定春が葵咲の傍へと走り寄ってきた。
定春「ワン!」
葵咲「あっ、定春君!モフモフ~♡」
葵咲は定春の首元に抱きつき、その触り心地を堪能した。少し遅れて銀時が葵咲の傍へと戻ってくる。その顔面は血まみれだった。
銀時「ったく…コノヤロー。俺にだけ全然懐かねぇ。おい葵咲。ちょっと散歩変わってくれよ。」
葵咲「え?いいけど。」
銀時「とりあえずこの遊歩道一周してきて。」
葵咲「はーい。じゃあちょっと行って来るね。」
定春「ワン♪」
勝手に進められる会話。存在を無視して置いてけぼりにされる会話に、近藤は苦い顔をした。
近藤「なに俺の存在無視して話進めてんの?」