第48章 エスコートの基本は道路側を歩くこと。
真選組屯所。近藤は自室で刀を磨いていた。
すると、部屋の外から声を掛けられる。
葵咲「近藤さん。今ちょっと宜しいですか?」
近藤は襖を開け、葵咲を部屋の中へと入るよう促す。一先ず二人は畳の上に座るが、葵咲の表情は曇っていた。
近藤「どうした?浮かない顔して。」
葵咲「その…先日は大変ご迷惑をお掛けしました。」
俯き加減に謝罪を述べる葵咲。だが、近藤は何の事か分からないといった様子で腕を組み、小首をかしげて視線を上にやる。
近藤「先日?何かあったか?」
葵咲「・・・・私なんかの為に…その、一緒に人質に…。」
そこまで言われてやっと気付く近藤。ああ、と小さく声を漏らして笑顔を作った。
近藤「なんだ、そのことか。あれは俺が勝手にした事だ。気にするな。真選組の局長として、というわけでもねぇ。ただの自己満足だ。俺は頭が良いわけじゃねぇし、ああいう事ぐらいしか仲間の為にしてやれんからな。」
葵咲「そんなことないです!近藤さんは皆にとって太陽みたいな人で、いるだけで皆の道しるべになるんです。だから…。」
言葉に詰まらせ、俯く葵咲。その言葉の先を読んで近藤が続けた。
近藤「『私なんかの為に命を粗末にするな。』、か?」
葵咲「!」
自分の心の内を読まれた葵咲はハッとなって顔を上げた。
近藤「それはお前にも言えることだぞ、葵咲。」
葵咲「え?」
辛そうな顔を浮かべる葵咲に、近藤は儚げで優しい笑顔を向ける。
近藤「俺なんかの為に心を傷めるな。」
葵咲「でも…。」
それでも目を伏せる葵咲に、今度はいつもどおりの近藤らしい頼れる笑顔で応えた。
近藤「それに、さっきも言ったがあれは俺の自己満足だ。俺は部下を守る事で局長って自信を持ちたかった。だからあれは俺自身の為でもあるんだ。礼を言うのはむしろ俺の方だ。ありがとう。」
葵咲「…近藤さん。」
力強い言葉、優しい笑顔、そして頼れる背中。真選組局長は伊達じゃない。器の大きいこの男に、葵咲は心底惹かれた。そしてこの男の下で、真選組という組織の中で一体自分に何が出来るのかを考え、それは一つの固い決意に変わったのだった。