第47章 生きる事、生まれてくる事を許されない人間なんていない。
何とか脱出した古兵衛だったが、その傷は深い。フラフラとアジトへ戻り、自分で傷口の手当をしていた。
田中「・・・・つっ。」
地面へと座り込んで傷口を押さえる古兵衛。暗闇の中、そんな古兵衛に近付く影があった。
高杉「派手にやられたみてぇだなァ、古兵衛。」
田中「・・・・・。」
声の主は高杉晋助。傷口の痛みに耐えながらも古兵衛はチラリと高杉の顔を見上げる。
高杉「てめぇは今回、“何をしようとした”?」
高杉の鋭い視線が降り注ぐ。その発言から高杉の真意を読み取った古兵衛だが、それには応えず、ムッとした顔つきで高杉から視線を外す。そして地面を見据えたままボソリと呟いた。
田中「・・・・別に。必要なモン集めただけだ。文句ねぇだろ?ちゃんと言われたモン集めてきたんだ。」
高杉「・・・・・。」
そう言って古兵衛は懐から一枚の紙切れを出し、高杉に手渡す。その紙には今回集めた材料の隠し場所が書かれていた。紙を受け取った高杉は暫く黙ってその紙を見つめていた。古兵衛は再び懐を探り、囚人の鍵を取り出して高杉の方は見ずにズイッと差し出す。
田中「囚人番号『2594253』の檻の鍵だ。」
高杉「!」
田中「今回“ヤツら”からの要求にはなかったがな。そいつがありゃ値下げ交渉くらいの役には立つだろ。」
高杉「・・・・・。」
どうやらこの“鍵”は付加価値として古兵衛が独自の判断で手に入れた代物だったらしい。
高杉は鍵を受け取り、古兵衛へと視線を移して質問を投げかけた。
高杉「よく幕府がこれを差し出す気になったな。」
田中「幕府の上の連中はこの事知らねぇぜ。それは真選組の鬼が勝手に判断してよこしたモンだ。」
高杉「!」
田中「それだけあの男にとっちゃ、大事な女って事なんだろ。…俺には到底理解出来ねぇがな。」
高杉「・・・・・。」
何かを深く考え込むように高杉は暫く鍵を見つめた後、鍵を自らの懐にしまう。
そして古兵衛に背を向けて歩き出した。
高杉「…古兵衛。今回はお前の功績に免じて目ぇ瞑ってやる。だが…次も勝手な真似してみろ。ただじゃおかねぇ。…いいな?」
田中「・・・・フン。」
それ以上二人は何も語らず、高杉はその場を立ち去った。