第46章 心を砕くのは言葉のナイフ。
古兵衛はビルの端まで辿り着くと、くるっと振り返った。そして転落防止用の柵にもたれ掛かり、両腕を柵に掛けてにっこりと微笑んだ。
田中「うん、勿論♡」
葵咲「!」
田中「始めからそのつもりだよ~。」
その笑顔が逆に気味が悪い。葵咲はゴクリと唾を飲み込んだ。そしていつでも刀を抜けるよう構えながら、古兵衛の次の言葉を待った。
田中「フフッ。腑に落ちないって顔してるねぇ?簡単だよ。これなら“正当防衛”になる。」
葵咲「・・・・・。」
嘘を吐かない事に何かの美学を感じているのか、それとも“何かにこだわって”いるのかは分からないが、それは言い訳のようにも聞こえた。
様子を窺うように葵咲が古兵衛の顔をじっと見ていると、古兵衛は柵にもたれかかったまま首だけ振り返り、ビルの下の方を見下ろした。
田中「・・・・ねぇ、なんでこの場所を選んだと思う?」
葵咲「?」
話がコロコロ転回する。古兵衛が何を言おうとしているのか、考えながら葵咲が目を細めると、古兵衛は葵咲の方へと視線を戻し、ニヤリと黒い笑みを浮かべた。
田中「眺めがいいからさ♡ 俺達の記念すべき初デートは綺麗な花火を眺めるのがいいかなーってね♡」
葵咲「…まさか!」
一気に血の気が引いていく葵咲。古兵衛が何をしようとしているのかが分かったからだ。葵咲は言葉を詰まらせ、大きく目を見開く。その様子を見た古兵衛は今の状況を大いに楽しむように高らかな笑い声を上げた。
田中「アッハハハ♪ここからなら、さっきのビルがよぉ~く見えるだろぉ?大きく燃え上がるよ~♡」
葵咲「・・・・っ!!」
葵咲が連れて来られたのは、先程監禁されていた建物のちょうど向かい側にあるビル。古兵衛は近藤に巻かれた爆弾の起爆装置を右手に持ち、葵咲に見せびらかすように頭上に掲げた。
田中「さぁ。救いたけりゃ俺を止めろ。でなけりゃ大事な大事な局長サンが死んじゃうよ~?かかっておいで♡」
葵咲「っ!!」