第46章 心を砕くのは言葉のナイフ。
葵咲は攘夷志士に連れられ、監禁されていた建物を出る。
古兵衛は葵咲達にすぐに追いつき、攘夷志士から葵咲の身柄を預かった。部下の攘夷志士達とはそのまま分かれ、葵咲は古兵衛と二人きりになった。
いつもは饒舌な古兵衛がこの時は何も喋らず、不気味な笑みも浮かべていない。とても冷たい目をして黙々と歩く古兵衛に、葵咲は背筋をゾクリとさせる。ここに来て初めてかもしれない。この男に心の底から恐怖を感じたのは。その恐怖に取り込まれまいとするかのように、葵咲は虚勢を張る。
葵咲「ちょっと!何処に連れて行くつもり!?」
古兵衛はその問いには答えずに歩き続ける。
葵咲が連れて来られた場所はビルの屋上。陽は沈み、すっかり夜になっていた。だがこの辺りはビル街で周りの街灯が明るく、電灯のないこの屋上でも周りの景色が見て取れた。
屋上に来てすぐに古兵衛は葵咲を掴んでいた手を離し、縛っていた腕の縄を刀で切って解放する。
葵咲「!」
田中「約束だからねぇ~。」
葵咲「・・・・・。」
古兵衛が一体何を考えているのか分からない。てっきりこの場で殺されるものだと思っていただけに、少し拍子抜けである。
だが、古兵衛が葵咲に固執している理由が決して好意的なものではない事が分かっていた為、決して安心は出来なかった。むしろ今まで以上に不審がるような目で古兵衛の方を見る。すると古兵衛は葵咲の目の前に彼女の愛刀、『雪月花』を放り投げてきた。
葵咲「!?」
田中「刀も返すよ。君の刀でしょ?それ。」
返却される愛刀を葵咲はすぐに拾い上げる事が出来ない。これは罠なのでは?そんな予感が頭を過ぎったからだ。
固まったように暫く目の前の刀を見下ろしていた。古兵衛は葵咲に背を向けてビルの端の方へとゆっくり足を動かす。
葵咲は恐る恐る言葉を放った。
葵咲「いいの?こんな…敵に塩を送るような真似して。」
田中「ん~?どういうこと~?」
葵咲「ここで私が…貴方を倒すって事…!!」
これがたとえ罠だったとしても、何もせずに引き下がるわけにはいかない。葵咲は刀を拾い上げて、鋭い視線を古兵衛へと向けた。