第45章 暗闇を照らすのは温かい光。
葵咲はそのまま続ける。
葵咲「そして行き場のなくなった私を快く引き取ってくれたのが、吉田松陽です。引き取られてすぐ、私も一緒に寺子屋に通わせてもらって…とても楽しい毎日を過ごしました。父も母も死んでしまって、私一人だと思ったから…。一人じゃないんだって…そう、思えたから・・・・。」
近藤「・・・・・。」
寂しそうに語る葵咲を見て、近藤もつられて寂しそうな表情になる。
葵咲「でもそれも…そんなに長くは続かなくて…。攘夷戦争が激化してきた時、私は市村の家へと行く事になったんです。」
そこで葵咲は言葉を詰まらせる。とても悲しそうに俯く葵咲を見て、近藤は先程の言葉を考え込んでいるものだと思った。“自分は市村の家へと厄介払いをされたのではないか。”そう考え、悲しみの表情を浮かべているのだと思って、葵咲を安心させるように声をかけた。
葵咲「・・・・・。」
近藤「…松陽殿は、本当に葵咲の事を大切にしておられたのだろう。自分の身に何が起こるかを予期していたのかもしれん。お前に火の粉が飛ばないようにと…そう考えたんじゃないか?」
葵咲「そう…ですね。」
近藤「そうに決まっている。だからそんな辛そうな顔をするな。」
いつもなら顔を上げて笑顔を見せるはずなのに、それがない。
近藤がおかしな事を言ったわけではない。ただ近藤の言葉は葵咲に届いていなかったのだ。何かを深く考え込むように、闇に取り込まれるように沈んでいく葵咲。近藤は心配そうに葵咲の顔を覗きこむ。
その時、葵咲の意識を引き上げる言葉が放たれた。
「“疫病神”」
葵咲「!」
パッと顔を上げる葵咲。視線の先、部屋の入口のところには古兵衛がドアに背を預け、腕組みして立っていた。“意識を引き上げる”と言っても、古兵衛のこの言葉は決して葵咲を救う為の言葉ではない。なら何故葵咲は顔を上げたのか。それはまさしく葵咲が心の中に思い浮かべていた言葉だったからだ。
葵咲は目を見開き、古兵衛から視線を外せないでいる。
田中「自分でも気付いてるんでしょ~?自分は疫病神なんだって。」
近藤「田中…っ!」
田中「自分の行く先々で人が死んでいく…。それって疫病神以外の何者でもないよねぇ~?」
近藤「貴様っ!!」