第45章 暗闇を照らすのは温かい光。
- 近藤・葵咲サイド -
“昔話”、そう言って語られるのは葵咲の過去だ。
その過去を語る為に、まず自分の家系について話し始めた。
葵咲「吉田松陽は、私の母の兄にあたります。父は転勤族だったらしく、私たち家族はひとつところに留まる事はあまりありませんでした。母は元々病弱な体質だったらしいのですが、父と三人で…裕福ではなかったけど、それなりに幸せな生活を送ってました。父は私と母を養うために、毎日朝早くから夜遅くまで仕事に出掛けていました。幼かった私は父の帰宅まで起きている事が出来なくて休みの日以外、ほとんど父と会話する事は出来なかった。けど…だからこそ、早く大きくなりたいって思ってました。大きくなれば夜更かし出来る。父上ともっと沢山喋れる、そう思って…。でも…その願いは叶わなかった…。父は事故で…亡くなりました。」
近藤は葵咲の方へと顔を向け、ただただ静かにその話に耳を傾ける。葵咲はその様子に安心したように淡々と話を続ける。
葵咲「本当に事故だったのか、実際のところは分かりません。戦乱の世だったから…。戦いに巻き込まれたのかもしれないし、もしかしたら、攘夷志士だったのかもしれない。それは今となっては分かりませんが…。」
近藤「そうか…。」
少し目を伏せて言う葵咲に、つられて悲しげに相槌を打つ近藤。葵咲は再び顔を上げて続きを語る。
葵咲「それから、今度は母が稼ぎに出て…。でも…それも長くは続きませんでした。一年も経たないうちに身体を壊して…そのまま他界したそうです。」
近藤「? やけに曖昧だな。」
最初父親の話をしていた時より、後の母親の話の方が曖昧だった。その事に疑問を感じた近藤がその疑問をそのままぶつけた。葵咲は少し眉根を寄せて近藤の方へと向き直った。
葵咲「すみません。幼かったからなのか、ところどころ記憶が曖昧で…。特に母に関する記憶が抜け落ちてるところがあるんです。後から伯父に聞いた話が多くて…。」
近藤「そうなのか。」
何かを隠しているわけではなさそうだ。葵咲が本当に分からないといった様子で首をかしげながら話す様子を見て、嘘を吐いているのではない事が見て取れた。