第44章 生い立ちや立場が違っていれば思想も変わる。
その事が分かった葵咲もまた、本音を語った。
葵咲「そう、ですね。確かに影響力のある人だったと思います。強い信念を持っていて、皆に優しくて、そして…高い志を持っていた。松下村塾の誰もがあの人の背中を追いかけていた、そう思います。」
近藤「そうか。」
思わず語ってしまった本音だが、ハッと我に返って俯く葵咲。
葵咲「すみません…。」
近藤「何で謝る必要がある?」
葵咲「だって・・・・。」
これでは自分も攘夷志士の思念を持っているみたいではないか。自分の真選組という立場を考えれば、控えなければならない発言だったと反省したのだ。
だが近藤は首を横に振って答えた。
近藤「…俺だって分からんよ。」
葵咲「え?」
葵咲は顔をあげて近藤の方へと視線を向ける。近藤は天井を仰ぎ見ながら一つの可能性を語った。
近藤「もし俺が幼い頃に出逢ったのが松陽殿だったら、今の俺はないかもしれん。俺も攘夷に参加してたかもしれん。そういう事だ。」
葵咲「近藤さん…。」
天井を見ていた視線を葵咲の方へと移し、葵咲の目を真っ直ぐに見据えながら近藤は言う。
近藤「こんなに真っ直ぐで素敵な女性が育ったんだ。松陽殿も、真っ直ぐで素敵な人だったんだろうと…俺は思うよ。」
葵咲「有難うございます。」
近藤の真っ直ぐな想いを受け止め、葵咲は心からの感謝を述べた。
そして葵咲もまた、その想いに応えるかのように言葉を紡いだ。
葵咲「近藤さん、少し昔話を…いいですか?」