第44章 生い立ちや立場が違っていれば思想も変わる。
- 近藤・葵咲サイド -
拘束されて約二日が経つ。
近藤と葵咲は交代で少しずつ睡眠を取っているものの、拘束されたまま、しかも腹部に爆弾を抱えたままでは熟睡出来るはずもなかった。
近藤は葵咲の体調等を心配して顔を覗きこむ。
近藤「葵咲、大丈夫か?辛くねぇか?」
葵咲「大丈夫です。近藤さんこそ…。」
近藤「俺も大丈夫だ。」
始めは共に人質とさせてしまった事を酷く心苦しく思い、申し訳ない気持ちに支配されていた葵咲だったが、今は近藤が隣にいてくれる事を心強く思っていた。隣に仲間がいてくれる、それだけで安心出来た。
今この部屋には近藤と葵咲の二人だけしかいない。古兵衛だけでなく、他の攘夷志士も何処か別の場所へと移っていた。とは言っても入口の外には見張りがいるだろうし、この部屋に監視カメラ等が設置されている可能性は大いにあるだろう。
一応念の為にその事を念頭に置き、会話内容に配慮しながら二人は小声で話した。
近藤「…田中古兵衛…本当に読めない男だな。」
葵咲「そうですね…。今回の目的は集めさせてる材料なんでしょうけど…。何に使うつもりなのかな。」
近藤「さぁな。それは俺達には皆目検討がつかん。だが今回の目的は恐らくそれだけじゃないだろう。」
葵咲「?」
近藤の見解に葵咲は小首をかしげる。そして頭を巡らせ、他に目的があるとすれば真選組の頭を潰す事だろうか、などと考えた葵咲だったが、近藤の考えは違っていた。
近藤「葵咲、お前自身も奴の目的の一つだろう。」
葵咲「!」
近藤「あの男が葵咲に執着しているのは確かだ。あいつも攘夷志士だ。吉田松陽の姪であるお前を手中に収める事で、その象徴を得られると考え、利用しようとしているのか、あるいはその逆か…。」
“その逆”、つまり葵咲を裏切り者と考えて始末しようとしているのか。近藤はどちらかというと後者の理由が濃厚なのではないかと考えていた。