第44章 生い立ちや立場が違っていれば思想も変わる。
近藤「…いや、違うな。これは単なる俺のエゴなんだ。」
葵咲「エゴ?」
近藤「お前を返してもらう条件の五つ目が提示された時、俺は正直一瞬迷ってしまった。囚人番号2594253、凶悪で粗暴な輩である事は間違いない。そんな奴を世に放つ可能性を高める事はご法度だ。だが…だからといってお前の身を犠牲にして良いはずがねぇ。その決断を、俺は即座に出来なかった…。局長失格だよ。」
後悔に満ちた顔をして語る近藤に、葵咲はかぶりを振って自らの意見を述べる。
葵咲「そんなの、真選組として当然です。そんな凶悪犯なら尚更、この江戸に放ってしまう危険を冒すわけにいかないでしょう。」
真選組という立場上、それは仕方のない事である。いや、近藤には“局長”という立場もあるから尚更である。
それは葵咲にだって分かっていた事。故にそれを理由に近藤を責める気など毛頭なかった。
だが近藤は自分が許せないといった様子で更に言葉を続ける。
近藤「鍵を渡したからといって世に放たれると決まったわけじゃねぇ。それに、仮に放たれたとしたって、また俺達が捕まえれば良い。ただそれだけの話だ。」
葵咲「・・・・・。」
そこまで言ってくれる近藤を見て、葵咲は本当にこの人が自分たちのトップで良かったと思った。そしてその気持ちを心から嬉しく思い、謝礼の言葉を述べた。
葵咲「…有難うございます。」
葵咲の言葉を近藤は受け取らず、首を横に振るう。
そして葵咲に笑顔を向けて言った。
近藤「その判断を即座に出来たのはトシだ。礼はトシに言ってくれ。」
葵咲「・・・・はい。」
その笑顔につられて葵咲も自然と顔がほころぶ。