第44章 生い立ちや立場が違っていれば思想も変わる。
iPadでの通信が途切れて何時間経つだろうか。
葵咲は変わらず縛り付けられたまま座っている。勿論、爆弾を腹部に抱えたまま。この爆弾は二通りの条件で起爆する仕掛けになっていた。
一つは古兵衛の持つ起爆スイッチを押した時。もう一つは制限時間が尽きた時だ。古兵衛はiPadの通信を切ったと同時に、時限爆弾を作動させたのである。
葵咲はなるべく爆弾に表示された時間は目に入れないようにしていた。目にすれば不安がこみ上げてきてしまう。
今まで真選組の為に常に命を張ってきていたと言っても、やはりこういう局面になれば不安は募るものである。人間なのだ、それは仕方のない事。
葵咲は気持ちを紛らわせる為に深呼吸をし、天井を見上げた。
古兵衛は今はもう葵咲には興味がないのか、葵咲の傍にある椅子に腰掛けて漫画を読んでいる。全く眼中にないといった様子だ。
読んでいるのはジャンプで連載中の『ギンタマン』。どうやら古兵衛はギンタマンのファンらしい。大笑いしながら漫画を読んでいた。
その時、部屋の入口の扉が開いた。
「さぁこっちだ、入れ。」
攘夷志士の声が聞こえ、葵咲は入口の方へと視線を移す。そこには後ろ手に縛られた近藤の姿があった。
葵咲「近藤さん!」
田中「やぁやぁ、いらっしゃ~い♡」
近藤の姿を見た古兵衛は読んでいた漫画を閉じ、椅子から立ち上がって近藤の下へと歩み寄る。だが近藤は古兵衛には構わずに葵咲に声をかけた。
近藤「葵咲!無事か!?何もされてねぇか!?」
田中「してねぇよ。ったく、俺ってそんなに信用ないかねぇ~。この間だって、ちゃ~んとした情報流してやったってのに。」
ふくれっ面をしながら近藤の腕を掴む古兵衛。そのまま近藤を葵咲の横へと座らせ、葵咲と同じように爆弾を巻きつけて柱へ縛り付けた。
葵咲は隣へ座った近藤へと視線を向け、唇を噛んだ。
葵咲「私の事なんか良いのに…なんで・・・・っ!」
近藤「俺の大事な部下だ。放っておけるわけないだろう。」
葵咲「近藤さん…。」
心強いその言葉に、ぐっとくる葵咲。思わず溢れ出そうになる涙を堪える。
そんな葵咲の様子を見て、近藤は少し申し訳なさそうな顔をして首を横に振った。