第43章 ミジンコにも大事な役割がある。
近藤「とにかく、そんな凶悪な男を世に放す鍵は…。」
田中「出せないってんならこの女の命はない。それだけさ~。」
近藤「っ!!」
ヘラヘラしながら言う古兵衛は、悩んでいる近藤達の姿を見てただ楽しんでいる様だった。それを近藤も分かって下唇を噛む。
何とも返答出来ない近藤の前に、土方がずいっと進んで前に出た。
土方「…それは合鍵でも構わねぇのか?」
近藤「トシ!?」
田中「…クスッ。別に構わないよ。檻の鍵が開くならねェ。」
土方「分かった。」
それだけ確認すると土方は再び後ろへと下がり、煙草に火を点ける。近藤が慌てた様子で土方の肩をガッと掴んだ。
近藤「おい!自分が何言ってるか分かってんのか!?」
土方「だったらアンタはこのまま葵咲を見捨てるってのか?」
近藤「そ、それは…。」
真剣に返される土方の瞳に、近藤は何も言えなくなる。掴んでいた手を離し、地面を見つめながら言い訳のようにボソリと言葉を漏らす。
近藤「だが、上が渡してくれるとは…。」
土方「適当に理由つくって借りてくる。そんで合鍵作る。それだけですむ話だろ。」
近藤「・・・・・。」
少し悩んだが、近藤は土方の提案に静かに頷いた。
そんな二人のやり取りを見ていた葵咲が慌てて叫んだ。
葵咲「そんな鍵渡しちゃ駄目です!」
葵咲の訴えを無視し、その叫び声を遮るように古兵衛が割って入った。
田中「ああ、言っておくけど。偽者の鍵とかよこしてみなよ。解放した後だろうが何だろうが、地の果てまででも追いかけて…この女を殺してやるからさァ。」
近藤「!!」
ゾクリ。近藤の背筋に冷たいものが走った。この男は本気だ。“何処まで本気か分からない”、それがこの男の特徴のはずだが、この時ばかりは本気だと、そう思えたのである。