第43章 ミジンコにも大事な役割がある。
明らかに空気が変わった。辺りを張り詰めたような空気が包み込む。
今までヘラヘラしていた古兵衛も、氷のような冷たい視線を向けていた。近藤は古兵衛と目を合わせたまま、慌てた様子で言葉を返す。
近藤「だ、駄目だ!それは渡せん!!」
土方「・・・・・。」
土方は何かを考え込むように黙り込んでいた。そのただならぬ雰囲気に絶えかね、新八が口を挟む。
新八「い、一体何だって言うんですか?」
近藤「・・・・死神とも鬼神とも言われ、恐れられている天人の檻だ。」
新八の質問に静かに近藤が答える。だが、その返答に疑問を感じた新八は質問を重ねた。
新八「天人?確か天人を捕らえる権限は幕府にはないはずじゃ…。」
今、この江戸には“治外法権”という制度がある。治外法権とは、江戸に在住する天人が犯罪を犯しても、幕府側にはこれを罰する権利がなく、天人に対する裁判等をその天人の出生の星に委ねるというもの。
いわゆる“不平等条約”というやつだ。この制度によって、今の幕府には天人を取り締まる権限がないのである。
近藤は新八達にも納得がいくよう、囚人についての説明を加えた。
この囚人は相当な凶悪犯で、江戸だけではなく、近隣の星々でも暴れていたという。今後の被害拡大を恐れた近隣の星々の連中は話し合いの結果結託し、囚人を捕らえた。本来なら捕らえられた天人は出生の星へと返され、そこで余罪を問われるのだが、その星のトップはそれを拒否した。そして江戸で投獄するよう処罰を下したとのことだった。
近藤「…要するに厄介払いだ。臭いものには蓋を。その星の連中もそんな凶悪な犯罪者にゃ関わりたくねぇんだろ。」
苦々しい表情で説明する近藤。それは幕府の力の無さ…いや、自分達の無力さを悔しがるようだった。
そして近藤は真剣な眼差しで続ける。
近藤「『地獄(259)から来た死神(4253)』、偶然なのか必然なのかは分からんが、囚人番号はそういう意味合いを持っている。」
新八「あの、すみません。後半ちょっと無理がありますよね。シニゴミになってますけど。“が”って読める数字ないんですけど。」
確かに無理がある。すかさず新八がツッコミを入れ、神楽も呆れた瞳で見つめていた。