第41章 超長距離移民船団はみんなの憧れ。
そんな土方の心情など知らない古兵衛は、先程と変わらぬ小声で話を続ける。まぁ古兵衛の性格なら、土方の苛立ちを知っていれば尚更面白がって煽るような真似をするかもしれないが。
田中「あの女に斬られて恨み辛みはないの?傷は疼かない?怪我させられたんだよ?下手したら死んでたかもしれないんだよ~~~??」
(山崎:…コイツ!!)
煽るような古兵衛の台詞に、流石の山崎も苛立ちが込みあげてきた。
確かに斬られた時は怒りの気持ちもあった。それは斬られたからというよりは、真選組への背信行為に対してである。だが、様々な事実を知った今ではそんな感情は露ほどもない。
山崎は怒鳴りつけてやりたい衝動を抑えながら、冷静に古兵衛の目を見据えて言い返した。
山崎「おあいにく様。俺はあの娘(こ)に護られただけだからね。」
田中「クッ、ハハハ。や~っぱりいるんだ~ちゃんとした女の子。」
突如身を引いて大声で笑い出す古兵衛。
それを見た山崎は自分がハメられた事に気付く。
山崎「え?…あっ!!」
古兵衛が山崎から引き出したかったのは葵咲に対する怒りの感情ではなかった。栗色の髪の女の子、つまり、“葵咲”が真選組にいるという事実。その確たる発言。古兵衛は山崎を試したのだ。山崎が煽られてボロを出すかどうかを。
いや、山崎で遊んでいた、という方が正しいのかもしれない。山崎はその事に気付き、悔しそうな表情を浮かべた。それを見た古兵衛は満足そうに、今度はしっかりと山崎の目を見据えながら真剣な眼差しを送った。
田中「お前なんかじゃ話にならない。局長サンか副長サン出してよ。その方が、君の為でもあると思うけどね~。君だってこれ以上、ボロは出したくないでしょ~?」
山崎「くっ…。」
何も言い返す事が出来ず、山崎は取調室から出た。