第41章 超長距離移民船団はみんなの憧れ。
山崎は怖くて顔を上げられない。様子を窺うようにチラリと上目遣いで古兵衛の方に目をやった。古兵衛は何も言わずに、ただニコニコしながら山崎を眺めていた。
(山崎:あれ?意外と俺ってイケてる?騙せてる??)
田中「ククッ。」
変な自信が沸いて来た山崎。
次の瞬間、古兵衛は身を乗り出して山崎に顔を近付けた。もう少しで唇が触れそうな勢いである。
山崎は思わず反射的に身を引いた。
(山崎:!? 近っ!!)
それでも古兵衛は引かなかった。むしろ山崎が身を引いた分、更に前のめりになってくる。山崎が怯えた表情をしていると、古兵衛が静かに口を開いた。
そして山崎だけが聞こえる声量で話し出す。
田中「君も可愛いんだけどォ~君じゃないんだよね~。」
山崎「!!」
田中「栗色の髪の女の子。いるんでしょ?」
(山崎:!! この男、やっぱり…!)
“栗色の髪の女の子”が指す人物は間違いなく葵咲。古兵衛が確信を付いて話している事は山崎にも分かった。山崎が言葉を詰まらせていると、古兵衛が追い討ちをかけるように小声で続けた。
田中「っつーかさァ。アンタも重症じゃなかったっけ?」
山崎「!?」
山崎の顔からは怯えた表情は消え去り、驚いた表情が浮かび上がる。何もかも知っているといった様子の古兵衛に、今までとはまた別の恐怖を感じたのだ。
二人の姿をマジックミラーで見ている近藤達だが、山崎は背を向けていてその表情は見えなかった。会話内容も聞こえない為、別の心配をする。
近藤「おいおい、大丈夫か?ザキの奴、唇奪われんじゃね?」
土方「あいつの唇で情報引き出せるんなら安いもんだろ。」
総悟「売春強要なんてひでーや土方さん。完全なセクハラですぜぃ。それに初めてだったらどうするんですかぃ。」
土方「それより、何喋ってやがんだ?聞こえねぇな。」
土方は苛立った様子で煙草をふかした。