第40章 隠し事は案外バレている。
例え相手が浪士であろうと、民間人が人を斬る事は許されていない。まず刀を持つ事が許されていないからだ。
だが、もしも葵咲が真選組隊士であったならば話は別だ。相手が攘夷浪士ならば、それが大義名分となる。
それで近藤達は葵咲がその処遇を問われる前に手を回し、真選組隊士であるという事実をねじ込んだのだ。
葵咲は真選組隊士となる事が決まっていた。だから伊東との動乱で前線に出たのだと“うえ”に説明した。
そしてそこは市村家という家紋を利用した。名門の武家娘、そんな腕の立つ者なら女であろうと隊士にする事に申し分ないという理由付けをしたのだった。
近藤はこういった事情の説明をとても苦々しい表情で語る。
近藤「だが…“うえ”も、そう甘くはなくてな。お前を隊士とする条件を提示してきていたんだ。」
葵咲「私が一番隊に配属になったこと、ですね。」
土方「・・・・・。」
一番隊は特攻隊の役割を担う一番危険な隊。そこで命を賭して戦うようにという意味合いだ。
だからと言って“うえ”は真選組の動向を常に監視しているわけではない。近藤達は“うえ”の目を盗み、本当に危険な任務からは葵咲を外していた。
葵咲は勘定方と女中の仕事も兼任している。理由はいくらでも繕えた。そちらの仕事が忙しいといえば誤魔化せたのだ。
だが・・・・。近藤は少し目を伏せがちに言葉を続ける。
近藤「先日の高杉の件はデカすぎた…。何処からかお前の情報が漏れたらしい。お前の素姓を聞いて、今回の件でお前を試したいと言ってきたんだ。本当に幕府の味方なら『心臓を捧げよ!!』とな。奴ら、壁の一番内側、お上の近くでぬくぬくしてる癖に。」
土方「何処の憲兵団?」
冷静なツッコミを入れる土方。だがそのツッコミに対して近藤は特に何も反応せず、悔しそうな顔のまま続けた。
近藤「…俺達の中に情報を漏らす奴がいるとは考えたくないが…。」
葵咲「大丈夫ですよ。真選組(このなか)にそんな人はいません。恐らく高杉一派の者の仕業でしょう。彼らは私を…消したいようですから。」
土方「・・・・・。」