第39章 探し物は思わぬところで見つかる。
土方「・・・・本当に捕まえられんのか?」
葵咲「え?」
土方「そんな大事な奴を、捕まえられんのか?」
土方の真剣な眼差しは全てを見透かすような鋭いもの。葵咲は心の内を見透かされるような念に襲われ、思わずぱっと視線を外してしまう。
気が動転しているのか、葵咲は思わず立ち上がった。
葵咲「あ、当たり前じゃん。私、怒ってんだよ?だって許せない話でしょ?あいつは私を刺したんだよ?幼馴染なのに!許せないよ。…許せない。」
その言葉は土方へ向けられた言葉というよりは、自分自身に言い聞かせているような言葉だった。
そして寂しさに満ち溢れた表情を浮かべながら、葵咲は更に言葉を押し出した。
葵咲「それに…高杉は・・・・晋ちゃんは…もう、いないから。」
葵咲の言葉を聞いて、土方は思い出す。
以前、屯所の食堂でうたた寝していた時の寝言、“しんちゃ”。そしてその時目に浮かべていた涙の事を。あの時の寝言は“新茶”ではなく、“晋ちゃん”だったのだと。
何も言えずにただただ葵咲の顔を見つめる土方。その視線の先に映った葵咲の瞳からは、一筋の涙が流れ落ちた。
土方「!! お前…。」
葵咲「…あ、これは違うよ。ゴミ!目にゴミが入っただけ!」
言われて初めて自分の目から涙が零れ落ちている事に気付く葵咲。慌てて誤魔化すように言い訳をし、土方に背中を向けた。
寂しい背中を見た土方は次の瞬間、何を考えるよりも早く身体が動いていた。
葵咲「えっ!?ちょ、土方さん!?」
後ろから葵咲をぎゅっと抱きしめる土方。突然の抱擁に葵咲は慌てふためく。土方の腕の中から逃れようとするが、その力は強く、全く振りほどく事が出来なかった。
そして葵咲の耳元で土方が静かに囁く。
土方「こうやってたら、見えねぇから。」
葵咲「!!」
低くて安心するような優しい声色。そのトーンの心地良さに、葵咲の涙は堰を切ったように溢れ出した。
葵咲「・・・・っ!この間、いっぱい泣いたのになァ…。なんで涙って…枯れないんだろ…。涙にも…上限があったらいいのにな…。」
そうして暫くの間、葵咲は土方の腕の中で静かに涙を流した。溢れ出す涙は土方の袖を濡らす。涙だけでなく、葵咲の思いも受け止めるかのように、土方の腕より下に涙は落ちなかった。