第39章 探し物は思わぬところで見つかる。
葵咲「吉田松陽の…。」
土方「いいよ、“松陽先生”で。」
無理して言い直す必要はない。
葵咲に攘夷派の思想がない事を知っている土方は、地面に目を向けたまま、静かに優しい言葉をかける。それを聞いた葵咲は、一度土方の方へと視線を移し、微笑を零した。
そして再び地面へと視線を落として話を続ける。
葵咲「…松陽先生の寺子屋に私も通ってたんだけど、最初は私、皆から嫌われてたの。」
土方「!」
葵咲「ほら、私、松陽先生の姪っ子でしょう?それで…皆は私が先生の家族だからって…私は特別扱いされてるって勘違いして私を疎ましく思ってたみたい。皆、先生の事、慕ってたから。」
土方「そんなのただの嫉妬じゃねぇか。その言いようじゃあ特別扱いなんてなかったんだろ?」
葵咲「・・・・うん。」
肯定して良いものか、少し迷った葵咲だったが、静かに首を縦に振った。それに対して土方は特に言葉を返す事はなかった。そして葵咲が話を続ける。
葵咲「でもね、高杉だけは違ってたの。高杉だけは…私を無視したり、仲間外れに、したりはしなかった。ううん、それだけじゃない。一人ぼっちでいた私を、私の手を引いてくれたんだ。いつも…私の傍に、いてくれた。」
土方「・・・・・。」
葵咲「それから暫くして…高杉の周りにいた子達とも喋れるようになって、段々友達も増えて…。…高杉がいなかったら私は…友達なんて、出来てなかった。」
自分の知らない葵咲の顔。しかも、敵である高杉だけが知っている素顔に、もやもやした気持ちが募る。土方はただただ静かに耳を傾けていた。
いや、口を挟めなかった、と言った方が正しいのかもしれない。
暫くの間、地面に視線を落として淡々と語っていた葵咲だったが、ここで天井を仰ぐように視線を上げた。
葵咲「あ~あ。…あの頃は優しかったのになぁ~。人って、変わっちゃうんだね。次、仕掛けて来たら絶対に捕まえよう、ね。」
天井を見ていた視線は土方に向けられる。無理矢理作られたような笑顔に、土方の胸はきゅっと締め付けられる。
その場にまた少し沈黙が下りたが、土方が言葉を押し出した。