第33章 長年染み付いた癖はなかなか直らない。
銀時「何か欲しいもんあるか?」
葵咲「えっとーじゃあ、ヤクルト!」
この瞬間、葵咲はもう桂の事は頭の中から消えてしまったらしい。笑顔で右手を挙手してリクエストする。
銀時「お前…相変わらずだなァ。」
葵咲「いいじゃん、別に!」
銀時「へいへーい。」
右手をひらひらとさせながら、銀時は歩みだした。
桂「ちょ、銀時!助けてよ!!(小声)」
銀時「まぁ頑張れよ。(小声)」
桂は必死にもう一度窓の外から呼びかけてみたが、銀時は足を止めることなく病室から出て行ってしまった。
銀時が病室から離れたか、その足音を確認するように、土方はじっと病室の扉の方に目を向ける。
暫しの間、病室内に沈黙が落ちた。その沈黙を破って良いものか分かり兼ねた葵咲は、土方の様子を伺うようにちらちらとその横顔を見る。
やがて、土方は葵咲のベッドの横に置いてあった椅子に腰掛け、葵咲の目をまっすぐ見つめて言葉を放った。
土方「・・・・お前、ずっと気にしてたんだろ。」
葵咲「え?」
土方が何の話をしようとしているのか、分からない葵咲はきょとんとした顔になる。
土方「吉田松陽の姪って事、ずっと俺達に後ろめたく思ってたんだろ?」
葵咲「!」
いきなり確信をつかれた葵咲はどぎまぎとしてしまう。咄嗟には誤魔化す言葉が出てこず、言葉に詰まってしまった。
葵咲「それ…は・・・・。」
もごもごと口ごもる葵咲を目の前にした土方は、更に確かめるように葵咲の顔を覗きこみながら続けた。
土方「それで…無理に仕事抱え込んでたのか?」
桂「! ・・・・・。」
窓の外にも土方の声は聞こえていた。そして、葵咲のしどろもどろな、その様子も。
桂は二人の会話に静かに耳を傾けた。
葵咲「ち、違うよ。私は仕事が好きなの。」
土方「うそつけ。」
葵咲「嘘じゃない!」
半分やけくそのようにも聞こえる葵咲の台詞。葵咲は土方から目を逸らし、俯きながら叫ぶように反論した。
だが、土方は平静さを保ったまま、そして葵咲をじっと見つめたまま静かに言葉を紡ぐ。