第32章 前に進む為には、まずは一歩から確実に。
近藤の見解は、土方のそれとは少し違っていた。
近藤「あいつはあいつなりに進もうとしてんじゃねぇか?」
土方「? どういうことだ?」
近藤が何を言おうとしているのか、その考えが分かり兼ねた土方は問い返す。近藤はふふんと鼻を鳴らし、微笑みながら目を瞑る。
近藤「葵咲とミツバ殿とを“重ねない為に”、見舞いに行かねぇ事を選んだって事だ。」
土方「!」
葵咲とミツバが“重なるのが嫌だから”病院に行かないのではない。葵咲とミツバとを“重ねてしまう自分が嫌だから”、病院に行かない事を選んだのだと。
それは紛れもなく、これからは葵咲とミツバを重ねないようにしようとする総悟の姿勢。総悟は前に進もうとしている。もう葵咲姉ぇとは呼ばない。葵咲を姉代わりとは思わない。その決意を揺るがせない為に、一歩前に進む為に選んだ道なのだろう。それが近藤の見解だった。
近藤「少しずつではあるが、あいつも成長してんじゃねーか?」
土方「フッ。そうか。」
近藤の意見に賛同した土方もまた、フッと微笑んだ。
そして少し歩いたところで土方は、何かを思い出したようにふと立ち止まる。
土方「・・・・・。」
近藤「? トシ?」
土方「悪ィ、近藤さん。先に帰っててくれ。」
近藤「どうかしたのか?」
土方「あいつに…確認し忘れた事があってな。」
その言葉だけを残し、土方は踵を返して再び病院へと向かった。