第32章 前に進む為には、まずは一歩から確実に。
二人の話と同じ内容の会話は、屯所内でも繰り広げられていた。
山崎「あれ?沖田隊長は行かなかったんですか?」
総悟「ん?」
屯所内をぶらりと歩いている総悟を見かけた山崎が、思わず声をかけた。
山崎「てっきり局長達と一緒に葵咲ちゃんのお見舞いに行ったのかと思ってましたよ。」
総悟「入院期間は三週間だろィ。見舞いになんて行かなくたってすぐに戻ってくらァ。」
早々に会話を終わらせて立ち去ろうとする総悟の姿を見て、山崎と一緒にいた原田が思わず口を挟んだ。
原田「やっぱりお前…まだ・・・・。」
総悟「・・・・・。」
『まだ…』、その先の言葉は、『姉(ミツバ)の最期と重なっちまうのか?』。ミツバが入院していた時の事、亡くなった時の事を知っている原田は、ポロリと言葉を零してしまったが、自分が踏み込んで良い問題ではないとすぐさま察し、言葉を噤んだ。
原田「あ、いや。すまねぇ…。」
その場に暫く沈黙が落ちる。重たい空気に山崎がそわそわしていると、総悟がボソリと呟くように声を発した。
総悟「…逆でぃ。」
山崎「え?」
あまりの小声に、山崎も原田も聞き取れず、きょとんとした表情をする。
総悟「いや、何でもねぇよ。」
山崎・原田「?」
ぼーっと立ち尽くす二人を尻目に、総悟は何も語らずにその場を後にした。