第32章 前に進む為には、まずは一歩から確実に。
“慕っていた幼馴染”とは、勿論高杉のこと。先日の抗争の事を銀時からあらかた話を聞いていた桂は、心から葵咲の事を心配し、この病院へと訪れていたのだ。
桂「高杉は葵咲にとって一番の友であったはず。そんな男に刺された葵咲の心の傷は図り知れぬものであろう。刀傷よりむしろ、その“心の傷”の方が深く厄介なのではないだろうか…。」
銀時「・・・・・。」
的確な桂の意見に、銀時は何も言えずに押し黙るしかなかった。桂は腕組みをし、少し寂しそうな表情を浮かべる。
桂「葵咲(あいつ)は今無理をしている。俺達に心配かけまいと、無理に笑顔を作っている。悲しい時に笑顔を作る事程、辛く難しい事はない。…まぁそれはあいつの強さとも言えるのかもしれんが…。」
桂が全てを言い終わる前に、銀時が割って入る。
銀時「んなもん強さなんかじゃねぇ。ただの強がりだろ。」
そうとも言える。銀時の意見に同意する桂は何も言えずにいた。少しの間、場に沈黙が降りたが、その後銀時が静かに続ける。
銀時「…前言ったんだけどな、少なくとも俺の前で強がんじゃねぇって…。」
そう語る銀時もまた、寂しそうな表情を浮かべる。自分達と葵咲との間に距離がある事を感じた桂は、深く目を瞑りながら言った。
桂「俺達と葵咲との間には見えない壁があるな。俺達でその壁をなくし、心の傷を癒す事が出来れば良いのだが・・・・。」
銀時「・・・・・。」
そうして再び、病室内に沈黙が落ちた。