第32章 前に進む為には、まずは一歩から確実に。
少し切迫した空気の流れる病室。だが葵咲は銀時の含みある言葉よりも、自分の為にわざわざ隊士達を配置してもらう事の方を気にしていた。
葵咲「すみません、皆さん忙しいのに…。私がこんな事になってしまったばっかりに…。」
一人でも二人でも、ここを警備すればその分仕事に穴が開く。忙しい中自分の為に時間を割いてもらう事を申し訳なさそうに謝った。
近藤「葵咲のせいじゃない。気にするな。お前は気にせずゆっくり休んでくれ。」
葵咲「…有難うございます。」
俯く葵咲をよそに、土方が話を続ける。
土方「警備開始は今日の晩からだ。何か持ってきて欲しいもんとかあるか?あればその時ついでに持って来させるが。」
土方の気遣いに、葵咲は俯いていた顔をぱっと上げた。
葵咲「ううん、大丈夫。必要な日用品とかは、昨日お妙さんと九兵衛さんが持ってきてくれたし。」
土方「そうか。」
葵咲が目覚めた事を知り、妙と九兵衛が昨日お見舞いに来ていたのだ。真選組は男所帯。女性として必要なものなどの気遣いが出来るとは到底思えない。そう思った妙は、すぐさま必要な物を取り揃えて持ってきてくれたのだ。
近藤「じゃあとりあえず俺達はこれで帰るからな。」
葵咲「うん、色々とありがとう。」
必要な伝達を終えた二人は、すぐさま病室を後にした。
二人の足音が遠くへ行ったことを確認し、銀時が窓の外へと声をかける。
銀時「おーい、もう入ってきていいぞ。」
桂「し、死ぬかと思った・・・・。」
思っていた以上の長話に、桂の指先は限界だった。やっとの思いで桂は窓から這い上がる。桂が部屋へと入ったところで、長谷川が新八と神楽に声をかけた。
長谷川「じゃあ今日は俺達も帰るか。」
新八「そうですね。」
葵咲「え?もう帰っちゃうの?」
近藤と土方は仕事の事で訪れただけだが、三人は見舞いへと来たはずだ。退散するには少し早い気がする。三人の意向を読み取れずにいた葵咲だったが、当の三人は話さずとも帰る理由を理解している様子だった。