第32章 前に進む為には、まずは一歩から確実に。
葵咲「長谷川さんまで来てくれるなんて嬉しいです。この間はマダオスペシャル食べ損なったので、また今度良かったら食べさせて下さい。」
新八「なにさらっと流してんだよ!人の話聞けよ!!つーか何で長谷川さんの名前は覚えてんだよ!」
新八が怒るのも無理はない。自分は何度も接しているのに“めがねさん”であるのに対し、たった一度、しかもほとんど会話も交わしていない長谷川の事を覚えていたのだから。
だがそんな新八のツッコミに誰も答えることはなく、会話は進む。
長谷川「退院したら嫌って程食わせてやるよ!残念ながら、屋台はクビになっちまったけどな。誰かさん達のせいで。」
神楽「いつまでもくよくよ後ろ振り返ってちゃ前に進めないアルヨ。そんなんだからマダオなんだヨ。」
長谷川「お前らがマダオにしたんだろーが!!」
今度は長谷川が怒り出す。まぁこちらも当然だろう。それは縁日でのこと、マヨネーズが切れ、その調達へと向かう際に万事屋の三人に店番を任せたわけだが、まんまと放置された。そして折角見つかった屋台の仕事を失ったのだから。
現在、長谷川が何の職についているのかは定かではないが、それは新八達にはどうでも良い事だった。新八は気を取り直して話を元の路線に戻す。
新八「そういえば三人は幼馴染なんですよね、吃驚しましたよ!まさか葵咲さんもだなんて。」
長谷川「おい!そっちこそさらっと流してんじゃねーぞ!!」
葵咲「ええ、そうなんです。私が気付いてなくて…こうして話すのが遅くなっちゃったんですけどね。」
長谷川の事に興味のない葵咲もまた、長谷川をさらっと流した。これ以上ツッコんでも無駄だと察した長谷川は、観念してそれ以上は何も言わずに他の者達の会話に耳を傾ける。
そして葵咲の言葉を聞いた新八は、気を遣うように言った。
新八「あっ、もしかして僕達、お邪魔でしたかね?」
葵咲「ううん!そんなことないよ!賑やかな方が楽しいし、来てくれて嬉しい!有難う。」
自分の何気ない一言が新八に気を遣わせてしまったと気付いた葵咲は、慌てて取り繕う。
両手を顔の前でぶんぶんと振っていると、病室の外からまた声を掛けられた。