第31章 旧友に忘れられて自分だけ覚えているのは何か悔しい
形勢逆転。
二人は揉み合っているうちに体勢が入れ替わり、銀時が葵咲を組み敷く形になってしまった。
銀時「あっ、悪ィ!わざと押し倒したわけじゃ…。」
軽く葵咲の腕を押さえつけた体勢になっていたのだが、銀時は慌てて手を離して上体を起こす。
その時、葵咲の目から涙が零れ落ちた。
葵咲「・・・・・っ。」
葵咲の涙に銀時は狼狽する。
銀時「えぇっ!?だからホントこれ事故だから!やらしい気持ちはねぇし…!!」
慌てて弁解するが、本当に慌てていたからか、葵咲に馬乗りになったままだった。
葵咲は両手で顔を覆い、嗚咽しながら言葉を紡ぐ。
葵咲「ごめ、違っ、違うの…。誰にも…誰にも言えなかったから…。誰にも相談出来なかったから…なんか安心しちゃっ…。こんな風に話せるなんて思ってなくって…っ。」
全てを一人で抱え込もうとしていた葵咲。だが、万事屋の店主の正体が幼馴染の銀時だと分かり、しかも和やかになるこの雰囲気に、思わずほっと堰が切れてしまったのだろう。
そんな葵咲の切ない気持ちが手に取るように分かってしまった銀時は、顔を覆っていた葵咲の手をそっと顔から外した後、そっとその頬に触れる。
銀時「…葵咲。」
銀時が葵咲の涙をぬぐおうとして顔を近付けたその時、居間の扉がガラガラっと開いた。
新八「銀さん、ゴキブリホイホイ新発売が出てましたよ。」
神楽「これで奴らを駆逐出来るネ!」
銀時「あ…っ。」
新八・神楽「・・・・・。」
一瞬で空気が凍りつく万事屋内。
それもそのはず。二人には銀時が無理矢理葵咲を押し倒し、葵咲が泣いて嫌がっているように見えたからだ。
銀時は慌てて葵咲から離れるが、時既に遅しだ。
銀時「いやっ!違!!」
新八「何やってんだオメーはァァァァァ!!」
銀時が何かを言う前に、新八と神楽の鉄拳が炸裂した事は言うまでもない。