第31章 旧友に忘れられて自分だけ覚えているのは何か悔しい
時は遡り、高杉との抗争の前日。
葵咲が万事屋に訪れた時の事である。
銀時が真選組の三人に話したのは、山崎を生かす為の演出の依頼に来たところまでだったが、実はまだ続きがあるのだ。
葵咲「大丈夫ですよ、心配しないで下さい。元の放浪生活に戻るだけですから。」
銀時「…待て!!おい葵咲!いい加減にしろ!!」
葵咲「?」
居間から出て行こうとする葵咲の肩を、銀時はがしっと掴む。その真剣な表情に葵咲は目を瞬かせた。
銀時「無理して笑うなよ!」
葵咲「何言って…。」
まるで自分の心の底を読み取るかのような銀時の発言に、葵咲は苦笑いをする。
銀時「ガキの頃、あれだけ高杉と仲良かったじゃねぇか。…ホントは…辛いんだろ?」
葵咲「えっ…?どうしてそれを…。」
知らないはずの自分の過去を何故知っているのか。葵咲は驚きのあまり目を見開いた。その表情を見た銀時は残念そうな顔をし、一つため息をついて肩を落とす。
銀時「あのなぁ。どんだけ俺の事、記憶にねぇんだよ。そりゃ確かに最初は全然喋ってなかったけど!」
葵咲の肩を掴んでいた手を離し、そのままその手で頭を掻く。“最初は全然喋ってなかった”、その言葉にピンときた葵咲は恐る恐る言葉を紡いだ。
葵咲「・・・・銀…ちゃん?もしかして、銀ちゃん!?」
銀時「…ハァ。やっと思い出したか。」
自分の事を思い出してもらえた事に安堵する銀時。
思わず笑みが零れた。
葵咲「えぇーーーっ!!ちょ、何で言ってくれないの!?」
銀時「そりゃこっちの台詞だろ!これだけ何回も接してんのに何で全っ然気付かねーんだよ!」
何度顔を合わせても、何度言葉を交わしても他人行儀に“万事屋さん”、しかも敬語で話される事にもどかしく思っていた銀時だった。
葵咲が気付くまでは自分からは何も言い出すまいと半ば意地になっていたのだが、今回は高杉が一枚噛んでいる。自分の意地などどうでも良くなってしまったのだった。