第31章 旧友に忘れられて自分だけ覚えているのは何か悔しい
桂「たのもーーーっ!!」
銀時「うるせェェェェェ!!」
狂乱の貴公子こと、桂小太郎である。
あまりの声のデカさに、銀時は桂のところまで走って行き、そのまま飛び蹴りを食らわせた。
桂「ガハッ!!」
銀時は少しでも葵咲が退屈しないように、少しでも元気を取り戻せるようにと考え、同じ幼馴染である桂を連れてきたのだ。
桂の姿を見た葵咲は、右手を口に当てて目を丸くする。
葵咲「太郎(たろ)ちゃん…!?」
思わず出てしまったのは、幼き頃からの呼び方、“太郎ちゃん”。
その呼び名を聞いて桂の表情は、フッとほころぶ。
桂「やはり俺に気付いていたようだな、葵咲。何故最初に再会した時に言わなんだ。」
“最初に再開した時”とは、一話目のお話。桂が葵咲にボディーガードを依頼した時の事である。
そう、この時葵咲は幼馴染の桂小太郎に気付いていたのだ。
葵咲「んー、太郎ちゃん気付いてなかったし、言わない方が良いかなぁと思って…。」
どうやら葵咲は、自分の事に気付いていない桂に合わせて知らないフリをしていたらしい。
まぁその気持ちは分からなくもない。自分だけ気付いていて相手が気付いていない場合、声を掛けて思い出して貰えれば良いが、もし思い出して貰えなかった場合のショックは計り知れない。
少し申し訳なさそうに俯く葵咲に対して、桂は励ますように声を大にする。
桂「何を言う!水臭いではないか!!」
銀時「気付いてねぇ奴が胸張って言う台詞じゃねぇだろ。」
立場と台詞の合致しない桂に、銀時はいつもの死んだ魚の目を向けた。
桂「いや、すまない。昔と苗字が変わっていたのでな。まさかあの葵咲だとは思わなんだ。」
桂の言葉に、葵咲はそっと微笑んで返す。その笑顔は少し寂しそうにも見て取れた。葵咲の微妙な心情に気付いた銀時もまた、つられるように少し寂しそうな表情を浮かべる。
そんな二人の微妙な空気に気付いていない桂は、大きな声を上げて笑いながら言った。
桂「それに、まさかこんなに別嬪になっているとは思いもしなかったしなぁ。はっはっは。」
葵咲「やだなぁ。褒めても何も出ないよ。飴ちゃんいる?」
銀時「って出てくんのかよ!大阪のおばちゃんか!!」