第30章 人間大事なのは肩書きじゃなくて、中身。
山崎の話によると葵咲はあの後、すぐに救急車で運ばれたとの事。救急車に同乗したのは土方だった。土方は道中ずっと葵咲の手を握り、声を掛け続けながら病院まで付き添ったらしい。救急車の中での事は後で医師から聞いたものだ。
そして大江戸病院へと到着し、集中治療室へと運ばれた。葵咲は三日間昏睡状態が続いたのだが、土方は集中治療室の前にある長椅子から片時も離れなかった。
近藤「トシ、少しは休め。ろくに煙草もマヨネーズも取ってねぇんだろう?」
土方「・・・・んなもん、必要ねぇよ。」
山崎からその回想シーンを聞いていた銀時が思わずツッコむ。
銀時「必要ないよね。一生摂取しなくたって死なないよね、ソレ。むしろ長生きするよね。」
確かに。普通は『ろくに食事も睡眠も』だろう。
話の腰を追ってしまったが、山崎の回想シーンに戻る。
近藤「トシ…。」
山崎「副長…。俺も、剣術修行我慢します。」
近藤「…お前のそれは、ただのサボりだろ。」
近藤の言葉を聞いて思い出すのは葵咲の元気な姿。
葵咲『あーっ!またマヨネーズ大量にかけて!コレステロール過多になるって言ってるでしょ!』
土方『いいんだよ、俺はこれで。』
葵咲『折角、土方さん用のメニュー考えたのに!』
土方『ありゃいいセンいってるがな、まだ足りねぇ。』
葵咲『土方さんってずっと煙草吸ってるよね。』
土方『なんだ、受動喫煙がどうの言うんだったら近寄らなきゃいいだろ。』
葵咲『いえ、まっくろくろすけ出て来たらパパラッチしようと思ってて。』
土方『出るかァっ!』
葵咲『きっと肺真っ黒でしょ?いるよ、絶対。』
土方『いねーよ!つーかこの世にいねーよ、まっくろくろすけ!』
あの会話のやり取りはもう出来ないのかもしれない、油断するとそんな悪いイメージが浮かんでしまう。過去の思い出が走馬灯のように浮かんでくる。
土方は必死にそのイメージや思い出を振り払った。煙草もマヨネーズも絶っていたのは土方なりの願掛けだった。葵咲が目を覚ませば、またあの会話を交わす事が出来る。その時に思う存分摂取すれば良いから、それまでの我慢だ、と…。
そして何とか峠を越えた。一命は取り留めたと告げられ、この病室へと移った後も、葵咲が目を覚ますまで土方はずっと傍にいたそうだ。