第30章 人間大事なのは肩書きじゃなくて、中身。
一瞬、時が止まったように感じた。
葵咲が刺された、その現状に誰もが目を疑う。歌舞伎町ビルのエントランスで戦っていた新八と神楽も、ちょうど今この場へと辿り着いた。二人も目の前で起こっているその情景に、目を見張るしかなかった。
そしてまるでスローモーション再生をしているかのようなスピードで葵咲は吐血し、ゆっくりと前へ倒れこむ。
土方はその姿を目の当たりにして叫んだ。
土方「!!!!!・・・・・市村ァァァァァ!!!!!」
目の前に倒れこんだ葵咲を見下ろしながら、高杉は刀の血を払い、吐き捨てる。
高杉「…人質にもならねぇか。」
土方「っ!!高杉ィィィィィィィ!!!!!」
頭に血が上った土方は総悟に向かっていた足を止めて刀を抜き、そのまま方向転換をして高杉の方へと走り出そうとした。
だがその時、一度は倒れこんだ葵咲が起き上がり、近くに落ちていた自分の刀を素早く拾って高杉へと一撃を加えた。
土方「!?」
高杉「っ!!」
総悟「・・・・・!?」
葵咲の太刀筋は左から右へ、大きく振り払うように高杉を斬り付ける。高杉はちょうど腹部のあたりを斬られた。致命傷は与えられなかったものの、結構な深手を負わせた。
真選組を騙し、攘夷側の人間と思われた葵咲が高杉に斬られ、そして反撃している…。総悟はただ目を見張るしかなかった。
一人取り残されたように目の前で起こっている事に頭が着いていかない。
葵咲「ハァッ、ハァッ。」
葵咲は腹部の痛みに耐えながら、刀を杖のようについて何とか立っている状態だ。
高杉は斬られた際に後ろへと飛びのき、その場にしゃがみ込んでいたが、ゆっくりと立ち上がった。
高杉「フッ。今回はここらへんで引いてやらぁ。」
高杉は刀を鞘へと納め、ビルの端の方へと向かってゆっくりと歩き出す。そしてそのままビルの闇の中へと姿を消した。
葵咲「・・・・くっ。」
葵咲は高杉の後を追おうとしたが、痛みに耐え切れず、その場へと倒れこんだ。