第29章 身近な人であるからこそ、知られたくない事もある。
葵咲が三人の姿を目にして気を取られたその隙に、高杉は葵咲の背後へと回る。
そして後ろから左手で葵咲の両手を押さえつけ、首元には刀の刃を突きつけた。腕を強く押さえつけられた事により、葵咲は手に力が入らず、刀をその場に落とす。
葵咲「…っ!!」
土方「高杉!!てめぇ…!!」
葵咲を人質に取られてしまっては、真選組の三人は動けない。その場に立ち竦んだ。
高杉「コイツの事、聞いたんだろ?」
土方「あぁ。そいつを放せ。そいつは俺達の仲間だ。」
高杉「ククッ。仲間、ねぇ~。」
土方「何がおかしい。」
自分の台詞をクスクスと笑う高杉に、気分を害する土方。土方は鋭い眼光で高杉を睨み付けた。
高杉「じゃあこれも聞いたか?コイツの素性。」
葵咲「!?」
高杉の言葉に青ざめる葵咲。
葵咲「やめて!!」
近藤「素性?」
葵咲「そんな事ここで言う必要ないでしょ!?」
必死に抵抗しようにも、両手はしっかりと押さえつけられて身動きが取れない。言葉で遮るしか方法がなかった。だが、高杉がそれに応えるはずもない。
高杉「コイツァ今いる攘夷志士どもの生みの親とも言える…」
葵咲「やめてよ!!やめて!お願い、言わないで…!!」
今にも泣きそうな声を上げる葵咲だが、高杉は容赦なく言葉を放った。
高杉「吉田松陽の・・・・姪だ。」
土方「!!」
葵咲「…っ!」
近藤「・・・・・え?」
先程新八が押し黙ってしまった意味深な台詞、謎の男が途中でやめてしまった会話。その先の言葉…
新八『もし彼らが… “葵咲さんを受け入れられなかったら…。”』
謎の男『だって晋助はあの女にとって大事な… “幼馴染なんだから。”』
葵咲は押さえつけられていた腕を振りほどこうと、もがいた為、腕に付けていたブレスレットがその弾みで切れた。
ビーズはバラバラになり、静かにその場へと散らばっていった。