第29章 身近な人であるからこそ、知られたくない事もある。
棒立ちになっている銀時に、神楽と新八が声を掛ける。
神楽「銀ちゃん!早く行くヨロシ!」
新八「後は僕達だけで大丈夫ですから!先に行って下さい!」
これは罠ではないだろうか、その考えが銀時の頭の中に過る。自分が葵咲達の下へと向かうと同時に、この男が新八と神楽に攻撃を仕掛けるのではないかと。
だが、その考えを読むように男が言葉を発した。
謎の男「安心してよ。ガキ二人の命なんか興味ないから~。言っただろ?足止めの目的はもう果たせてんだよ。ま、そんなに心配なら俺がこの場から立ち去るまで見てたらいいよ。じゃあね~。」
そして男はそのままビルから出て行った。男が戻ってくる事も懸念したが、新八達の後押しにより、銀時は「悪いな。」とだけ言葉を残して真選組の三人に追いつくべく、階段を駆け上がった。
歌舞伎町ビルから出た謎の男は、フラフラと歩く。銀時との戦闘で体力を消耗していた事に加え、先程の一撃がかなり堪えている様子だ。
そんな謎の男に、一人の攘夷志士が走り寄る。
「宜しかったのですか?白夜叉を行かせて。」
どうやら、この攘夷志士もエントランスから抜け出してきたようだ。口調からして、謎の男の側近か何かのようだ。
謎の男「ん~?まーそろそろ晋助の方も決着着くでしょ~。あ~、俺ってやっぱり優しいなァ~。敵に情けをかけてあげたんだよ。大事な女の死に際にくらい、立ち合わせてやりたいってね。…あの女は、絶対に晋助を斬れない。」
「確かに、高杉さんには到底敵うとは思えません。」
側近の男が言葉を返すも、謎の男はそれを笑って返した。
謎の男「ハハッ。そういう意味じゃねーよ。だって晋助はあの女にとって大事な…」
「大事な?」
側近の男は、その言葉の先を知らない様子だ。謎の男は並んで歩く男の顔をちらっと見た後、再び前を向いた。
謎の男「フッ。いや、やめとこうか。」
二人はそれ以上言葉を交わす事なく、そのまま雨の中消えていった。