第29章 身近な人であるからこそ、知られたくない事もある。
ビルの闇の奥へと歩を進めた葵咲達。
葵咲と高杉は、更に上の階へと階段を上っていた。そしてビルの最上階へと辿り着いた時、葵咲は高杉に問い掛けた。
葵咲「ねぇ。そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?真選組を消して、その後どうするつもり?」
攘夷志士が幕府を討とうとしている事は百も承知の事。だが、その後は?この江戸という町をどう変えるつもりなのか、何か政策はあるのか。
いや、それより何より確認しておかなければならない事。この江戸に住む人々をどうするつもりなのか…。
葵咲は高杉の方針を尋ねた。高杉は一度葵咲と目を合わせたが、やがて視線を逸らし、葵咲に背を向ける。そしてビルの外に目を向け、はるか下の地上で戦う攘夷志士と真選組とを眺めながら答えた。
高杉「別にどうもしねぇさ。俺ァただ壊すだけだ。松陽先生を奪った、この腐った世界を。」
葵咲「でも…この世界にはまだ残ってるモノもあるじゃない…。」
“まだ残っているモノ”。先の攘夷戦争では数多くの命が失われた。勿論、高杉の仲間の命も。だが全ての命が失われたわけではない。鬼兵隊だってそうだ。高杉にとっては大事な仲間ではないのか。その事を葵咲は問い掛けたのだ。
高杉「そんなもん俺には必要ねぇ。」
葵咲「・・・・・。」
必要ないとあっさり斬り捨てられる、かけがえのないものたち。
葵咲は深く目を瞑り、下を向く。そして以前、縁日で土方に貰ったブレスレットを懐から出し、握り締めた。
そしていつものように左手にそれをつけ、左手首をぎゅっと握る。
(葵咲:土方さん、力を貸して…。)
決意を固めた葵咲は自らの刀、雪月花を抜き、高杉の背後からその刃を向けた。
高杉「…何の真似だ?」
高杉は振り返らない。だが、いくつもの修羅場をくぐり抜けてきたこの男は、自分に刃が向けられている事を視線を向けなくても読み取れた。
葵咲「やっぱり貴方は…あの時、殺しておくべきだった…。」
高杉「ククッ。お前に出来るのか? 俺が直々にお前に稽古、つけてやらァ。」
次の瞬間、高杉は素早く刀を抜いて葵咲の方へと振り返り様に斬りかかった。