第29章 身近な人であるからこそ、知られたくない事もある。
高杉「天下の真選組ともあろうものが、情けねぇ話だな。大事なモン自分から遠ざけて、それで本当に護れると思ってんのかぃ?」
土方「何が言いてぇ。」
土方達が葵咲をこの一件から外し、更には真選組から出そうとしたのは他でもない葵咲の身を案じての事。
過去にミツバの気持ちを受け入れず、ミツバ一人故郷に残して上京して来た時と同じだ。
だが勿論、その事を高杉が知っているはずもない。葵咲でさえ知りえぬ事実なのだから。
だが、そういった考えを見透かされているようで、土方にとっては決して気分の良いものではなかった。
高杉「本当に大事なら、常に自分の目の届く範囲に置いとくのが定石ってもんだろう。まぁこっちとしちゃあ、そのお陰で今回容易に事が運んだんだがな。ククッ。」
高杉の言う事には一理ある。失いたくないモノ、奪われたくないモノなら、常に自分が傍にいて自分の手で守れば良いという事。
勿論、土方の考え方も間違っているわけではない。傍にいれば、それだけ危険に巻き込む可能性も高くなる。危険を避ける為に遠ざけるという選択。
どちらが間違っているわけではない、単なる考え方の相違だ。再び場に沈黙が下りたところで葵咲は踵を返して歩き出した。
山崎「待ってくれ!葵咲ちゃん!!」
山崎の呼びかけも虚しく、葵咲はビルの奥へと消えていった。そして高杉もまた、その後を追うようにゆっくりと闇に消えていく。
二人の後を追おうにもこの階は小さな窓しかなく、助走をつけて飛び移れそうもない。仕方なく三人は更に上の階に上がる事にした。
土方「くそっ!!」
階段を駆け上がりながらも、土方はただ願うしかない。“間に合ってくれ”と。