第29章 身近な人であるからこそ、知られたくない事もある。
男の言う事は一理ある。
高杉は銀時の事を名前で呼ぶ。名前で呼ばれるだけなら何らかの因縁があった等で誤魔化せるが、昔話でもされようものなら銀時が以前攘夷戦争に参加していたという事が真選組に知れてしまう。
今は平穏な市民として生活している銀時だが、以前の罪状を問われれば言い逃れは出来ないのではないか。また、過激攘夷派の高杉と顔見知りだという事で近年のテロ行為まで疑われてしまうのではないか。
だが、そんな脅し文句に動揺する銀時ではない。しっかりと男の方を見据えて応えた。
銀時「そうなりゃそうなったまでだ。つーか、その方がお前らにとっちゃ都合がいいんじゃねーのか?」
何故わざわざ自分達に都合の悪くなる事を今カミングアウトしたのか?何か企みがあるのではと、銀時は探りを入れる。
だがそれに対して男はへでもないかのように平然とした態度を保った。
謎の男「まぁ真選組を動揺させるって意味ではそうかもねェ~。アンタに全部罪を着せて逃げる事も出来るし。けど、それじゃつまらないだろ?アンタは今のポジションの方が面白い。」
銀時「ケッ。おいおい、単なる愉快犯かよ。鬼兵隊にこんな奴がいるなんざ、アイツも終わってんな。」
アイツとは勿論高杉の事である。こんな輩を置いていて統率が取れるのだろうか。そんな疑問に駆られたのだった。
だが、それに対して男はヘラヘラと笑い飛ばした。
謎の男「残念☆外れ~。俺は正式には鬼兵隊じゃないんだァ~。」
新八「じゃあ、貴方は一体…!?」
この場に集まっているのは高杉率いる鬼兵隊ではないのか?ならばこれは高杉の指示ではなく、この男の単独行動によるものなのか?男の発言に新八は惑わされる。
謎の男「でもまぁ、今後どうなるかは分かんないけどねェ~。」
わざと攪乱させる為に発した言葉なのか。それとも単なる思い付きの嘘なのか。不可解なこの男の言動に、新八は動揺を隠せない。
だが、頭の中を整理している時間はなく、男は右手に握った刀を銀時の方へと向けた。
謎の男「さぁて、お喋りはこれくらいにしておこうか。喋るのにも飽きてきちゃったし、この刀が血を欲しがってるみたいだしさァ。」