第28章 笑顔の裏には苦悩がある。
そう、山崎の推察では敵の大将である高杉は残忍な男。対峙すれば容赦なく山崎を斬り殺すだろう…。
勿論、山崎の腕では高杉に敵うはずもない。だからその役を葵咲が買って出たのではないか、との事だった。自分が山崎を殺すフリをすれば山崎は大事には至らない。
山崎「それに、昨日意識が遠のいていく中、聞こえたんだ。葵咲ちゃんが旦那に『後はお願い』って言ってるのを…。刀には睡眠作用のある薬か何かが塗られてたんでしょ?」
土方「山崎を眠らせたのは、この場所を知ってるのがコイツだけだったからだろう。」
そう口を挟み、土方はジャケットから一枚の紙を取り出して山崎の前にずいっと差し出した。
土方「山崎、この報告書に見覚えあるか?」
山崎「え?」
差し出された報告書を見て山崎は驚愕する。報告書を手にとってまじまじと目を通した。
山崎「これは…俺の書いた報告書じゃない!」
土方「そうだ。当初山崎に貰った報告書には俺が珈琲零して場所の文字が読めなくなっていたはずだ。」
時は遡り、約一週間前の出来事だ。
高杉の動向について調べていた山崎は報告書を土方へと提出した。報告書を受け取った土方は、後で目を通すつもりで一先ず机の上に置いたのだが、その際に付近に置いていた缶コーヒーを倒し、報告書にぶちまけたのだった。
山崎「あーっ!副長!何やってんですか!折角書いた俺の報告書ォォォ!!」
土方「悪ィ。ここ読めなくなったわ。何て書いてた?」
自分の失態を特に悪びれる様子もなく、しれっと尋ねる土方。山崎は自分の書いた報告書を存在に扱われた事に対して涙目になりながらもその質問に答える。
山崎「“場所は大江戸第一ビル”ですよ!ちゃんとメモっといて下さいよ!報告書二回も作りませんからね!」
場所を聞いた土方は鉛筆でさっとその報告書にメモを取り、紙が乾いてから机の引き出しにしまったのだった。
勿論、土方がこの場に持ってきた報告書には、そんなメモなど書かれているはずもない。