第28章 笑顔の裏には苦悩がある。
高杉の傍から離れ、ビルの階段を下りる葵咲。階段の踊り場へ来たところで、階下に見知った顔がある事に気が付いた。
「久しぶりィ~♡」
伊東の画策の際や、その後真選組から抜け出した際に葵咲の前に現れた黒髪金メッシュの謎の男だ。
葵咲は男の姿を確認すると踊り場で足を止め、黙って男を睨み付けた。男はゆっくりと階段を上り、葵咲の前で立ち止まる。
謎の男「残念だったね?せ~っかく嘘の場所と時間を教えたのにねぇ?」
葵咲「アンタ…!」
この男が真選組に密告を?そう思った葵咲はカッとなる。だが、男の態度を見てそうではない事を悟る。
謎の男「あれ、もしかして図星?」
葵咲「っ!」
謎の男「アハハ。適当にカマかけてみただけなんだけど、図星かァ~。」
これには葵咲も歯噛みするしかない。いつも一枚上手といったこの男に、踊らされているようにさえ感じた。
そして葵咲の心を読むかのようにヘラヘラしながら男は続ける。
謎の男「俺はな~んもしてないよ?まァ、俺もお尋ね者だからねェ~。真選組とは極力接触したくないんだよ。真選組もそれほどバカじゃないって事でしょ~。」
この場に真選組が来たのはあくまでも真選組独自の判断によるものだと言う謎の男。葵咲はこの男とこれ以上関わりたくないと言わんばかりに、何も言わずに階段を下り始める。男は葵咲を振り返り、階下を見下ろしながら更に付け加えるように言った。
謎の男「あ、言っとくけどアンタの事も晋助には黙ってたんだからね?お陰で後でスゲー睨まれたんだから。」
男の言葉に足を止める事なく、葵咲は階段を下りていく。
謎の男「じゃあ俺は晋助に用があるから。またねェ~。」
葵咲に全く相手にされない事で、諦めたように男はその言葉だけを残して階段を上って行った。