第26章 平穏な日々は長くは続かない。
土方「待て。山崎が連れ去られるところ、お前は黙って指咥えて見てたのか?」
冷静さを保っていたのは副長の土方。土方は静かに立ち上がり、葵咲を見下ろしながら問いかけた。
葵咲「・・・・・。ごめんなさい。」
葵咲は冷や汗を垂らしながら視線を逸らす。それを庇うように総悟が土方の前へと一歩進み出た。
総悟「土方さん、アンタ何言ってんですかぃ?葵咲姉ぇの無事を喜ぶのが先ってもんじゃねぇのか?」
近藤「そうだぞトシ!相手はあの高杉だ、無茶を・・・・。」
加勢するように近藤も葵咲を庇う。だが、土方は至って冷静に更に意見を述べた。
土方「じゃあ質問を変える。高杉は“お前には何もしなかった”、のか?」
総悟「!」
近藤「?」
近藤は、土方の質問の意味を読み取れずにいた。だが、総悟はその質問の意味に気付き、はっとした表情を見せる。葵咲もその質問の意図を読み取ったように何も答えず、静かに俯いていた。
葵咲「・・・・・。」
土方「普通、人質に取るなら山崎じゃなくて市村だろ。それにあの高杉がその場で斬り殺さねぇとは考えられねぇ。」
この事件の全貌を読み取っているかの如く、土方は更に続ける。
土方「…お前、何を隠してやがる?」
葵咲「・・・・・。」
隊士達がざわめき始める。近藤を始め、隊士達の視線は葵咲へと集まるが、葵咲は何も答えようとはしなかった。そして全く別の場所から聞きなれた男の声が上がる。
「へぇ。脳味噌はマヨ漬けになってなかったんだなぁ。なかなか勘が鋭いじゃねぇか。」
誰もがその声のする方へと一斉に振り返る。