第26章 平穏な日々は長くは続かない。
葵咲が神社へと向かった数時間後の事。すっかり夜も更けてきたが、葵咲や山崎は未だ屯所に戻らない。
嫌な胸騒ぎのした土方は、屯所の入口で二人の帰りを待っていた。
土方は先程から何本も煙草を吸っていた。屯所入口の地面には多数の吸殻が落ちている。土方は苛立ちながらも暗闇の中、左右に目を凝らし、二人の帰りを待った。
すると誰か人影が走ってくる姿が見えた。葵咲だ。
葵咲「ハァハァ…土方さん!!」
血相を変えて神社から屯所へと走って戻ってきた葵咲。その顔からは血の気が引いていた。
ただ事ではないその様子に、土方は慌てて問いかける。
土方「どうした!?」
葵咲「退君が…退君が!!高…杉に・・・・!!」
土方「!? どういうことだ!?何があった!?」
全く状況が掴めない。一体何が起こったのか、順を追って説明するよう葵咲に促すが、軽くパニック状態に陥っているのか。話す言葉は支離滅裂としていた。
葵咲は屯所の玄関へと少し入ったあたりで崩れ落ちる。土方も葵咲の前へと一緒にしゃがみ込んだ。
葵咲「退君が連れてかれたの…私の代わりに!」
土方「!! ・・・・・。」
二人のそんな声を聞きつけた隊士達が屯所の玄関口へと集まり始める。その中には近藤や総悟の姿もあった。
総悟「葵咲姉ぇ!大丈夫ですかぃ!?怪我は!?」
総悟も葵咲の前へとしゃがみ込み、心配そうに顔を覗き込む。葵咲は総悟に心配かけまいと笑顔を作るが、その笑顔は作られた笑顔そのもので、その表情は引きつっていた。
葵咲「私は何とも…。」
そして葵咲は俯き、悔しそうにうなだれる。
葵咲「私、何も出来なかった…。」
総悟「そんなの気にする必要はねーよ!俺達が何とかする!!」
落ち込む葵咲を励ますように総悟は葵咲の肩へと手を置き、力強く声を掛けた。
葵咲「早く…早く行かないと退君が…。」
葵咲の言葉に総悟は頷き、そしてすぐに立ち上がって近藤へと勇ましく声を上げた。
総悟「近藤さん!早く山崎を救出に行きやしょう!」
近藤「ああ、そうだな!!お前ら!準備などしている時間はない!ここにいる奴らだけで出陣するぞ!一刻も早く…。」
その場にいる隊士達に同意を求めるように、近藤は辺りを見回しながら号令を掛けようとする。
だが、それを遮る人物がいた。