第26章 平穏な日々は長くは続かない。
それから数日、山崎は土方に言われたとおり葵咲の動向を探った。屯所内での仕事中は勿論、買出しや休憩時間も葵咲から目を離さずにいた。
(山崎:探れって言われてもなぁ…。これじゃまるでストーカーだよ…。)
自分の行動を振り返り、ふとそんな事を考えてしまう山崎。だがこれも上司の指示だから仕方がないと自分に言い聞かせて仕事に戻る。
浮気調査を行なう探偵はいつもこんな気持ちだったのだろうか、等とどうでも良い事も考えながら。
暫く葵咲の行動に目を張っていたが、これといった収穫は無かった。“特に異常なし”と土方に報告しようと思った矢先の事だ。
ある日の夕暮れ時、葵咲が人目を盗むように屯所から出て行く姿を目撃する。
(山崎:ん?何処行くんだ?)
買出しは昼過ぎに済ませたばかり。ここ数日葵咲の様子を見張っていたが、妙や九兵衛と約束があるといった様子でもなさそうだった。
葵咲は真選組に女中として勤める前、一週間程度だが妙の家に世話になっていた。それ以来、葵咲は妙と仲良くしている。
また、妙の紹介で九兵衛とも顔見知りになった。三人は時々今流行りの女子会も開いているのだ。
女子会の目的は三人それぞれバラバラ。葵咲は女友達も少ない故に女子会を楽しむ為、妙は九兵衛に女子としての楽しみを知ってもらう為、九兵衛は単に妙と一緒にいたい為だ。
そんなバラバラの目的ではあるが、会えばそれぞれ話す事もあり、話に花を咲かせていた。
時にはこの三人に神楽も加わる事もあったが、最近は万事屋の仕事が忙しいのか、はたまた女子会に飽きてしまったのかは分からないが、神楽は不参加になる事が多かった。
そんな女子会もついこの間開催されたばかり。そんなにすぐにもう一度開催されるとは思えない。
山崎は気になって葵咲の後を尾けていくと、普段足を向けない方向へと向かっていった。
(山崎:…神社?)
屯所を出た時は夕日が差していたが、神社へと訪れた頃にはすっかりと日も暮れ、辺りは薄暗くなっていた。
この日は満月。月が東の空へと昇り始めていた。