第26章 平穏な日々は長くは続かない。
自室へと戻ってきた土方だが、まだ腑に落ちない様子だった。部屋へと戻ってきて早々、煙草を五本も吸い、それでも悩むように唸った。
(土方:やっぱり何か違和感がある…。最近のあいつの様子も気になるところが多いしな。)
暫く色々と考えた末、土方は自室に山崎を呼んだ。高杉の件で調査に出ていた山崎だったが、先程帰ってきたようである。
山崎「なんですか?副長。」
帰ってきて早々に呼び出される山崎。高杉の件で緊迫した屯所内から察するに、また高杉絡みだと思って山崎は身構えた。張り詰めた空気の中、土方は真剣な面持ちで山崎に指示を出す。
土方「お前、ちょっと市村を張れ。」
山崎「…は?」
自分の想像とは全く別の指示を出され、思わず気の抜けた返事をしてしまう山崎。土方はそんな山崎には気付いていない様子だ。
土方「あいつの行動を探れ。いいな。」
山崎は一つため息を漏らし、呆れたような顔をして言った。
山崎「副長、それはいくらなんでも職権乱用ってもんですよ。」
土方「あん?」
何の事を言っているのか。山崎の言う“職権乱用”の意味を問うように土方は片眉を上げて山崎の方を見た。
山崎「浮気調査はちょっと…。」
土方「んなわけあるかァァァ!!なんでそうなるんだよ!?」
山崎「他に男がいるかもって事なんでしょ?」
土方「ちげーよ!あいつの様子がおかしいから見張れっつってんだよ!!」
山崎「なるほど。葵咲ちゃんが挙動不審でそわそわしてる…副長に他の男の存在がバレないかと…。」
土方「違うっつってんだろ!つーか何!“他に”って!?俺の女じゃねーしィィィ!!」
縁日以来、山崎は土方と葵咲の仲を疑っているのである。二人は縁日で良い感じの雰囲気になっていた。しかも事故とはいえ、唇を重ねるという急接近のハプニング。恋に発展していてもおかしくない。その後山崎は監察と言う性分がそうさせるのか、密かに二人の身辺調査をした事もあった。勿論、二人は何の進展もないため未収穫に終わったわけだが、回りにバレないようにコッソリ付き合ってるのではないか、等と勘繰っていたのだ。なおも疑いの目を向ける山崎に、当然のことながら土方はブチ切れる。
土方「バカ言ってねぇでさっさと仕事しろ!!」
半ば追い出されるように土方に蹴りを食らいながら山崎は葵咲の調査へと駆り出された。