第26章 平穏な日々は長くは続かない。
俯いていた葵咲だったが、少しの間を置いてから視線は下に逸らしたまま言葉を紡いだ。
葵咲「私だって…、怖い時ぐらいありますよ。高杉の恐ろしさは知ってます。…だから正直、そう言って貰えて胸を撫で下ろしてるんです。」
何かに怯えるように自らの腕を抱きかかえ、下を向いている葵咲。それに対して土方は冷たい一言を浴びせた。
土方「…なら、ここを出ろ。お前は真選組隊士失格だ。」
葵咲「!」
土方の言葉に葵咲は驚き、思わず顔を上げる。冗談などではない、土方は真剣な面持ちで葵咲を見据えていた。
土方「局中法度教えただろ?敵前逃亡は局中法度違反だ。怖いだなんだと、そんな甘い考えでここにいられちゃ困るんだよ。」
重く圧し掛かるその言葉に、葵咲は黙って俯くしかなかった。
土方「…今の発言は聞かなかった事にしてやる。だが、もう一度よく考えてみろ。それでも恐怖心があるなら、ここを出て行くんだな。お前は女って事で寿退社とかで誤魔化しといてやる。」
葵咲「・・・・・。」
真選組を出る者、脱走者は問答無用で処罰の対象である。“寿退社等で誤魔化す”という計らいは、土方の最大限の優しさであろう。
土方は葵咲の返答は待たず、その言葉だけを残して離れを後にした。