第26章 平穏な日々は長くは続かない。
土方はその足で葵咲のもとへと向かう。葵咲は自室のある離れへと戻っていた。
土方「おい、市村。ちょっといいか?」
葵咲「はい?」
部屋の外から呼ばれて葵咲は中から顔を出す。葵咲は土方を部屋の中へと入るよう促したが、土方は中へは上がらず、そのまま外で立ち話を始めた。
いつもとは違う土方の真剣な眼差しに、葵咲は思わず息を呑んだ。
土方「今回の高杉の件だが、お前は外れろ。」
葵咲「…え?」
思っても見なかった土方からの用件に、葵咲は思わず目を丸くする。葵咲が何も言えずにいると、土方が続けて理由を話した。
土方「奴はあまりにも危険過ぎる。いくら隊士の中で上位の腕前つってもお前は女だ。それを利用される可能性もあるからな。」
葵咲「・・・・・。」
話を聞いた葵咲は暫く黙って考え込むように俯いていたが、やがて顔を上げた。
葵咲「そう…ですね、分かりました。」
土方「・・・・・。」
葵咲「じゃあ暫くの間、私は勘定方の仕事と女中の仕事をしてます。勿論、それ以外の件は隊士としても動きますので。」
やけにあっさりと引き下がる葵咲。その様子を見て土方は怪訝な顔を浮かべる。
土方「やけに大人しいな、お前らしくねぇ。」
葵咲「え?」
土方「いつものお前なら『女だからって関係ない』、そう言って簡単には引き下がらねぇだろ。」
葵咲「それは…。」
土方の推察に、葵咲は思わず目を逸らす。そしてたたみ掛けるように土方は葵咲に詰め寄った。
土方「相手が誰だって関係ねぇ。むしろでかいヤマ程喰らいつく性格だろ。…何か、あんのか?」
葵咲「・・・・・。」