第25章 嵐の前の静けさ。
その日の深夜、土方は屯所内の食堂へと足を向けていた。
喉が渇いた為、食堂にある自動販売機で何か飲み物を買おうと思ったのだ。勿論食堂に電気などついてはおらず、人気も無い。だがそれはいつもの光景なので土方も平常心を保っていた。
何気なく食堂に足を踏み入れる土方。その時、厨房の中から何かが落ちる物音が響いた。当然の如く、土方は背筋を凍りつかせる。
内心ビクビクしながら、恐る恐る厨房の方へと歩を進める。
そっと中を覗き込むと、厨房の中にあるテーブルに突っ伏し、眠っている葵咲の姿があった。どうやら新しいレシピでも考えていたようだ。いくつものレシピ案が書かれた紙がテーブルの上と床とに散らばっている。
葵咲「スー…スー…。」
なんだ市村か。土方はそう心の中で安堵のため息を漏らす。そして葵咲を起こそうと肩を揺すった。
土方「おい市村、こんな所で寝てたら風邪引くぞ。」
葵咲「う~ん…むにゃむにゃ…。」
土方「…ハァ。ったく…。」
いくら揺すっても起きる気配のない葵咲に、土方は仕方なく自らのジャケットを掛けた。
すると葵咲はもぞもぞと動く。起こしてしまったかと土方が様子を伺っていると、葵咲の口から言葉が漏れた。
葵咲「ん…。…しん…ちゃ・・・・。」
土方「しんちゃ?…寝言か?」
葵咲の目は開かない。どうやら寝言のようである。やはり起きる気配のない葵咲の寝顔を静かに見守っていると、葵咲の目から涙が零れ落ちた。
土方「・・・・・!」
特にうなされているというわけではない。ただ静かに零れ落ちる涙に、土方は何も言えずにいた。
すると、葵咲の寝言が続く。
葵咲「んー…それ、新茶じゃなくてハンドクリーム。・・・・飲めないよ…。スー…。」
土方「…どんな夢見てんだ。」
心配して損をした。そう心の中で思い、土方はその場を後にした。