第25章 嵐の前の静けさ。
その見解には少し複雑な思いを抱いた近藤だったが、やがて優しい笑顔で葵咲の方に目をやった。
近藤「葵咲は本当に人をよく見てるな。一度、この事であいつを殴ったことがあった。その時あいつも分かってくれたと思ってたんだが…。まだまだ受け入れるには時間がかかるかな。」
“この事”というのは、ミツバが危篤状態になった時の事だ。『てめーが勝手に掘った小せェ溝なんて俺達はしらねェ。』そう言って近藤は総悟を殴ったのだ。勿論その事は知らない葵咲だったが、近藤の人柄や真選組という組織を見てきてなんとなくだが、想像が出来た。
葵咲「そうだね、頭の中では分かっていても心は追いつかないことがある…。」
近藤「・・・・・。」
葵咲「そーちゃんはまだ、それを受け入れる事が照れくさいのかもしれないね。」
近藤「…ふぅ、難しい年頃だなぁ。」
葵咲「でも大丈夫、いずれそーちゃんも気付く日がくるよ、きっと。」
近藤「そうだといいがなぁ。」
子育ての難しさを実感する母親か父親のように腕組みしながらも呆れたような笑顔を零す近藤。そんな近藤に葵咲は笑みを返す。そして葵咲は何かを思い出したように声を上げた。
葵咲「あ、そうだ。近藤さんにちょっとお願いが…。」
近藤「ん?なんだ?珍しいな、お前が俺にお願いなんて。」
一方、近藤の部屋を飛び出した総悟は、仕事をサボって街中を一人歩いていた。心の靄は晴れないまま、思いが胸のうちを駆け巡る。
(総悟:なんでどいつもこいつもヤローを庇うんだ。ヤローの事を見てやがるんだ。昔からそうだ。いつもヤローの周りには自然と人が集まる。ヤローを評価する。近藤さんも、姉上も…。姉上は血の繋がってる俺よりもヤローの事を見てた。一番見てた。それが何よりも気にくわなかった。葵咲姉ぇだって…。)