第3章 男の下心には気を付けろ。
葵咲「…やっぱり私、弱そうに見えます?」
自分の想いを伝える事って難しい。鉄子はそう思った。良い意味で伝えたつもりだったのだが、まさかのネガティブ思考により、悪い意味で捉えられてしまった。鉄子は慌てて訂正する。
鉄子「あ、いや、そういう意味じゃなくて…。…刀なんて所詮は人斬り包丁だろ。アンタ人を斬るタイプには見えないから…。」
少し落ち込んで下を向いていた葵咲は、その言葉を聞き、そういう意味かと納得して顔を上げた。
葵咲「あぁ。んー…私は人を斬る為に刀を使ってないので。」
刀は所詮人斬り包丁、そう言われ続けてきた鉄子にとって、葵咲のその言葉に光が見えた気がした。
葵咲「私ね、護り屋って仕事してるんですよ。平たく言えばボディーガードです。この刀は依頼主を護る為だけに使うようにしてるから…無駄な血は吸わせてません。」
葵咲の仕事を聞いた鉄子は、以前自分が父に言った言葉を思い出し、思わず口に出していた。
鉄子「…人を…護る剣…。」
その言葉に葵咲は静かに笑顔で頷いた。
葵咲「沢山の人を護るには、もっともっと強くならなきゃいけないんですけどね。」
苦笑いで言う葵咲を見て、でもこの人なら自分の想いを繋いでくれるかもしれない、そう思って鉄子は言葉を返すのではなく、笑顔で首を横に振ることで気持ちを伝えた。
葵咲「おいくらですか?」
鉄子「いや、お金はいい。」
葵咲「え?でもこんな立派に…。」
鉄子「いいんだ。私は今まで何人もの使い手に出会ってきたけど、アンタが初めてだ。そんなに真っ直ぐに“護る剣”を手にした人は…。アンタに出逢えて良かったって思う、私の気持ちだ。代わりにと言ってはなんだが、その刀、これからも護る剣として大切に使って欲しい。」
護る剣を打ちたいと願って刀鍛冶になったものの、刀は人を選べない。数多くの刀が、ただの人斬りの道具として扱われてきた。そんな中出逢えた二人目の護る剣の持ち主。そんな彼女に出逢えて本当に良かったと思ったのだ。
葵咲「村田さん…。」
鉄子「鉄子でいいよ。また何かあったらいつでも来てくれ。アンタの力になりたい。」
それは社交辞令などではなく、鉄子の本心からの言葉だった。