第3章 男の下心には気を付けろ。
土方十四郎との出逢いから約一週間が経ったある日の朝、護り屋を営む市村葵咲は、刀鍛冶屋へ訪れていた。
葵咲「すいまっせーん!預けてた刀取りに来ましたー!」
攘夷志士との揉め事があったことから、いつ何時刀を使う局面に立っても良いように、メンテナンスの為に刀を預けていたのである。
鉄子「ああ。もう済んでるよ。」
鍛冶屋の店主の名は村田鉄子。あの史上最悪の兵器とも言える『紅桜』の生みの親である村田鉄矢の妹である。
葵咲「わぁ!有難うございます!」
鉄子「凄く綺麗に手入れされてるな。あまり打ち直す必要もなかった。」
鉄子が関心するのも無理はない。葵咲は自らの刀、『雪月花』の手入れを怠った日は一日もないのだから。それだけ『雪月花』は葵咲にとって大切な代物なのである。大切な人の忘れ形見、大切な人との大事な思い出の代物なのだ。
葵咲「へへっ。大切なモノは大切にしないと、ね。」
無邪気にそう答える葵咲を見て、鉄子はふと思った事を口にした。
鉄子「アンタ、刀を使うようなタイプには見えないけど…。」
見た目はお世辞にも社交辞令でも凄腕の剣客といった風には見えない可憐な女性。話してみてもふわふわした雰囲気の今時の女の子だ。そう思って何気なく言った鉄子の言葉は、葵咲には鉄子の思いとは別の意味合いで捉えられた。