第24章 他人は自分より優って見える。
悶々とした気持ちのまま数日が過ぎる。総悟は何となく仕事にやる気を出せず、パトロールをサボって河川敷へと訪れていた。
川のほとりに腰を下ろし、特に何を考えるでもなく、ただぼーっと水の流れを見守る。
その時、突如右頬に冷たい感覚が走った。
総悟「!?」
総悟は驚いて振り向く。
そこには缶ジュースを持った葵咲が笑顔で立っていた。
葵咲「あはは、吃驚した?サボり魔見~っけ。」
総悟「葵咲姉ぇ…。」
この日は一番隊として数名でパトロールに出ていた。だが、突如行方をくらませた総悟を皆で探しに行ったのだ。
パトロール中に姿をくらませてからそんなに時間は経っていない。すぐに居場所を見破られた事に総悟は驚いた。
頬には先程のジュースの冷たさが残っており、無意識に右手を頬に忍ばせた。葵咲は笑顔のまま、だが少し呆れたような表情で一つため息をついた後、総悟の横へと腰を下ろす。
葵咲「隊長、こんなところで油売ってちゃダメですよ。これ飲んだら仕事に戻りましょーね。」
まるで子どもをあやすかのような葵咲の口ぶりに、総悟は尚更拗ねた。ムっとした表情を浮かべていた総悟だが、葵咲の手にある缶ジュースを見て思わずツッコんでしまった。
総悟「…なんでヤクルトなんですかぃ?」
普通こういう場合は当たり障りのない珈琲かお茶、もしくは相手が好きな飲み物なのではないだろうか。だが葵咲が手に持っていたのはマイナーとも言えるヤクルトだった。
ヤクルトは小さなボトルが主流だったが、缶タイプのものが先日発売されたようだ。まぁそういう意味では今、旬な飲み物なのかもしれない。
葵咲「ヤクルト美味しいでしょ。」
総悟「いや、俺ァ別にヤクルト好きじゃ…。」
葵咲「私が好きなんで。ヤクルト。だからそれ飲んだら仕事に戻りましょう。」
総悟「何のノルマ?」
とりあえず総悟はヤクルトを受け取り、封を開けた。だが缶に口をつけることなく、ただ握り締めて何かを考えるように再び川の水面に目を向けた。