第24章 他人は自分より優って見える。
昼食を済ませた総悟は何気なく屯所内を歩いていた。
すると、道場から出てくる人影が目に入った。
「いや~やっぱ副長に稽古つけてもらうのはキツイな。」
山崎「なんだよ、あれぐらいでへばったのか?」
どうやら会話から察するに、土方に手厳しくやられたらしい。総悟が隊士に目を向けると、確かに顔や手等、竹刀で打たれたような後が残っていた。
「だってあの人手加減なしだぜ?俺の力量ってものを見て欲しいよ。」
肩を強く打たれたのか、隊士は右肩をさすりながらため息を漏らした。そんな隊士に山崎はそっと微笑みを返した。
山崎「力量を見たから、じゃないの?」
「え?」
山崎「あの人はむやみやたらに力を振るったりはしないよ。きっと石田がその稽古に耐えられると思ったから、あれだけの稽古をつけてくれたんだ。石田の力を信じたからこそだと思うよ。」
石田と呼ばれた隊士は、山崎の言葉に目を瞬かせる。そしてその言葉を真摯に受け止めた。“力を信じたからこそ”、その言葉に嬉しく思った石田は自然と微笑が零れていた。
石田「そう…なのか。」
山崎「ああ。あの人はしっかり人を見てるよ。」
二人がそんな会話をしていると、目の前に竹刀を持った総悟が立ちはだかった。
総悟「おい。じゃあ今度は俺が相手してやらァ。」
山崎「いぃっ!?」
石田「お、沖田隊長…!」
総悟は竹刀で自らの肩をポンポンと叩きながら不敵な笑みを浮かべる。ドS魂がその表情からにじみ出ていた。
総悟「お前らは俺の稽古にも耐えられるとみた。極限までしごいてやるぜィ。」
山崎「目がそう言ってないですが!?『殺』になってますが!!」
総悟に恐れをなした二人は怯み、一歩、また一歩と後ずさる。そして二人は踵を返して走り出した。
山崎「お、俺今から仕事あるんで!!」
石田「俺もっす!すいませんんん!!」
総悟「あっ!お前ら!待ちやがれ!!」
突如全速力で走り出す二人に遅れを取ってしまった総悟は、一人その場に佇んだ。
山崎「あの人は本気で殺しにかかってくるからな!」
石田「命がいくつあっても足りねーよ!!」
二人のそんな会話は総悟の耳には届いていないが、自分と土方への評価の違いに総悟は歯噛みし、拳を強く握り締めた。
(総悟:どいつもこいつも、気にくわねぇ。)