第24章 他人は自分より優って見える。
その日の昼頃。時計の針は十四時を回ろうとしていた。
土方が道場で一人素振りを行っていると、背後から突如総悟が刀を振り下ろした。勿論総悟は竹刀ではなく真剣である。
総悟「土方ァァァァァ!!覚悟ォォォォォ!!」
土方「のわァァァァ!いきなり何しやがんだ総悟!!」
間一髪のところで避ける土方。土方にかすり傷一つつけられなかった総悟は舌打ちする。
総悟「チッ。なんでぃ土方さん、相変わらず冗談が通じねぇや。」
土方「オメーは冗談の域越してんだろぉがァァァァァ!!つーか今舌打ちしたじゃねーか!マジだったろ!!おい、待て総悟!!」
襲撃に失敗した総悟は刀をしまい、その場からさっさと立ち去ろうとする。
そこに葵咲が訪れ、二人に声を掛けた。
葵咲「土方さん、そーちゃん。」
小言を言われる前にと立ち去ろうとしていた総悟だったが、葵咲の姿を見るなり足を止め、表情を明るくした。
総悟「葵咲姉ぇ!」
葵咲「そろそろ一旦食堂閉めちゃうから、お稽古切り上げてお昼ご飯食べに来て。」
厨房等の掃除で昼食が片付いたら一度食堂を閉めるのである。この日二人がまだ食堂に訪れていなかった為、葵咲は二人に声を掛けに来たのだ。
土方「稽古じゃねーだろ!どう見ても!」
“稽古”という言葉より、“暗殺”という言葉の方が相応しいと思った土方はすかさずツッコミを入れる。だがそんなツッコミも虚しく空(くう)に消えた。今回そのツッコミが消えたのは葵咲が聞いていないというよりは、総悟がその言葉に被せるように挙手したからだ。
総悟「はい!今すぐ行きやす!」
元気の良い総悟の返事を聞いた葵咲は自然と笑顔になる。二人は食堂へと足を向けようとするが、土方はその場から動かずにいた。
土方「俺ァいい。」
葵咲「えっ、でも…お昼どうするんです?」
土方「今は腹減ってねぇ。すいたら適当に外で食う。」
わざわざ気遣ってここまで呼びに来てくれた葵咲に対して冷たい態度なのではないか。
そう思った総悟はムスっとした表情になって土方に向き直った。