第23章 笑いのツボは人それぞれ。
三人が談笑している場所に忍び寄ろうとしている影があった。阿伏兎である。
(阿伏兎:あの女、危険因子はここで消しとくか…。)
夜兎の本能である戦闘意欲を消し去り、あの神威を自らのペースに持ち込んでしまった葵咲を危険視したのだ。
阿伏兎が葵咲達の方へと足を向けようとしたその時、後ろから突如声を掛けられた。
「何やってんの?阿伏兎。」
阿伏兎「!! だ、団長!」
葵咲達の様子を窺う事に注意を注いでいた為、背後にきた神威には気付いていなかったのだ。
神威「今日ずっと俺達のこと、尾行(つ)けてたよね?」
阿伏兎「なんだよ、気付いてたのか。」
どうやら神威は自分達の後を尾行(つ)けてきていた阿伏兎に気付いていたようだ。阿伏兎の尾行に気付きながらも、敢えて何も言わなかったらしい。
神威「お前の下手な尾行に気付かないとでも?」
阿伏兎「・・・・・。」
これには阿伏兎も苦笑いをするしかない。
神威「葵咲は俺が後で美味しく頂くんだから。勝手に取ったら俺がお前を殺すよ?」
どうやら今日一日で神威は心底葵咲の事が気に入ってしまったようだ。そんな獲物に横から手を出せばこちらの命がない。そう思った阿伏兎は苦笑いのまま返答する。
阿伏兎「…ハァ。分かりましたっ。取らねーよ。」
頭をボリボリ掻きながら苦笑する阿伏兎を見て、神威は何かを思い出したように付け加える。
神威「心配しなくても、鳳仙の旦那みたいに女に骨抜きにされたりなんてしないって。」
これは勿論、日の輪のことだ。日の輪に心酔した為に吉原にずっと居座った夜王鳳仙。そんな鳳仙のようにはならないと言っているのだ。
阿伏兎「そうですかぃ。そりゃ安心だ。」
一先ず阿伏兎が納得した様子を見ると、神威はそのまま踵を返して歩き出した。
(阿伏兎:・・・・どうだかな…。)
神威の後姿を見ながら、阿伏兎は先行きの不透明さに目を細めた。